ノラ・ジョーンズの7枚目のスタジオ・アルバム「ビギン・アゲイン」は、7曲で30分未満の作品なのでアルバムにカウントしない場合もあるようです。レコード時代と違ってもはやアルバムとEP、シングルの境目がはっきりしないために起こる現象です。

 それはさておき、本作品はコンセプト・アルバムだと帯に書かれています。どんなコンセプトかというと、それは「何のプレッシャーもジャンルの境界線も持たずに、ただクリエイティヴな道に没頭して音楽を作る」というものだというのです。

 一般的に了解されるコンセプト・アルバムとは似ても似つかぬ呼び方なので注意が必要です。そのコンセプトは一連の配信リリース作品につけられたシリーズ名「ソング・オブ・ザ・モーメント」を半分説明するものです。ノラは2018年にこのシリーズで4曲を発表しました。

 本作品はこの4曲に未発表曲3曲を加えて制作されたアルバムです。配信リリースされた4曲には特に関連性は見受けられません。もちろん、いずれも「ただクリエイティヴな道に没頭して」作られた曲でしょうが、それをもって同じコンセプトというのは無理があります。

 さて、その4曲ですが、まず最初の「マイ・ハート・イズ・フル」はトーマス・バートレットと一緒に制作した曲です。トーマスはダヴマン名義での活動しており、デヴィッド・バーンやオノ・ヨーコを始め幅広いアーティストとの共演でも知られる、まだ30代の鍵盤奏者です。

 演奏はすべてトーマスでノラはボーカルに専念しています。不穏な空気の漂うダークかつヘヴィな曲調です。このコンビによる未発表曲「アッ・オゥ」も同様にダークで重い曲で、地を這うようにプログラミングされたドラムが沈みます。

 続いて発表されたのは「イット・ワズ・ユー」で、前作「デイ・ブレイクス」と地続きの滋味にあふれたジャジーな曲です。ブライアン・ブレイドのドラム、クリス・トーマスのベース、ピート・レムのハモンド・オルガンと前作と同様のアンサンブルは安定のサウンドを醸します。

 このアンサンブルの曲はアルバム・タイトルに選ばれた「ビギン・アゲイン」、本作からの先行シングルとなった「ジャスト・ア・リトル・ビット」を加えて、計3曲が本作品に収録されています。前作よりもさらに落ち着いた作風にほっとします。こんなんなんぼあってもええです。

 残りは2曲、いずれも配信リリースされた「ア・ソング・ウィズ・ノー・ネイム」と「ウィンタータイム」はジェフ・トゥイーディーとのコラボ楽曲です。ジェフはシカゴのベテラン・オルタナ・ロック・バンド、ウィルコのフロントマンです。 

 ノラはウィルコの楽曲をプス・ン・ブーツでカバーしていましたし、そのオルタナ・カントリーと呼ばれる作風とは極めて親和性が高いです。二人もしくはジェフの息子スペンサーを加えた三人の演奏はデビュー時のノラを彷彿させるしなやかなサウンドを奏でます。

 アルバム作りではなく、シングル曲作りに注力した結果をまとめたアルバム。なにやらベスト・アルバムっぽい作りのアルバムにはノラ・ジョーンズの2018年19年が結晶しています。結果的にはまとまりもある集大成的なアルバムができあがりました。嬉しいですね。

Begin Again / Norah Jones (2019 Blue Note)