「懐かしくて新しい」と1980年代的なコピーをつけられたノラ・ジョーンズの6作目のオリジナル・アルバムです。「名曲『ドント・ノー・ホワイ』から15年、ノラ・ジョーンズがまた、ジャズに帰ってくる」。これが「懐かしくて新しい」の正体です。

 前作で組んだのはデンジャー・マウスでしたけれども、位置づけは違うものの今回同じような役割を果たしたのは、ウェイン・ショーターとブライアン・ブレイドでした。2014年にブルー・ノートの75周年記念コンサートで共演したことがきっかけでした。

 ショーターは言わずと知れた名サックス奏者、ブレイドはショーターのカルテットに参加している、引っ張りだこのドラム奏者です。二人との共演はノラを興奮させ、「私は絶対に、こういうのをもっとやりたいんだ!」と思ったそうです。

 ブレイドはノラのデビュー作でもドラムをたたいていましたから、まさに原点回帰、ジャズ回帰です。ただし、ピアノの弾き語りスタイルに回帰と言われるとかなり違和感があります。土性骨の座った力強いジャズ・コンボ作品ですから。

 プロデュースはノラ自身とイーライ・ウルフとサラ・オダとなっています。二人ともノラのチームの人と言ってよい人ですから、ある意味外から新たな血を導入するというよりも、自分自身を掘り下げて制作していくことにしたということでしょう。

 9曲のオリジナル曲のほとんどはノラの自宅キッチンの「小さな小さなピアノ」で書き上げたのだそうです。シングル・カットされた「キャリー・オン」で、老夫婦が小さな家のキッチンではしゃぐMVのイメージが重なります。とても親密な愛にあふれた空気です。

 ノラは前作から本作までの間に母親になっています。愛に対する見方が変わったと語っており、恋人に対する愛から子どもにそそぐ愛情へとフォーカスが変わっています。それを裏から象徴するのが「キャリー・オン」のMVでしょう。

 3曲のカバーは、ニール・ヤングの「ドント・ビー・ディナイド」、何やらきな臭い現代にこそ聴いてほしいというホレス・シルヴァーの「ピース」、似た曲を書きたかったけれども書けなかったからカバーにしたというデューク・エリントンの「アフリカの花」です。

 曲調は実はジャズ一辺倒でもなく、意外とミクスチャーなスタイルです。演奏も少人数のコンボからブラスやストリングスを効果的に使ったものまでさまざまです。そこに統一感をもたらしているのはブレイドのドラムだとノラは言います。まさにいぶし銀のプレイですね。

 そのドラムを背骨に、ウェイン・ショーターのソプラノ・サックスや、大御所のドクター・ロニー・スミスのハモンド・オルガンが渋く響く中で、ノラが「たくさんピアノを弾いて」います。ファースト・アルバム以来というピアノの多用です。やっぱりこのスタイルも似合います。

 ボートラのライブに比べるといかにスタジオ録音が繊細に組み立てられているかよく分かります。よだれが出そうになるほど深くて渋い。まろやかなコクのある演奏にしびれます。ロックやジャズの原型から新たなサウンドを鋳出したような見事なアルバムです。

Day Breaks / Norah Jones (2016 Blue Note)