ティーバッグ入りのカップを持っているのがノラ・ジョーンズ、あくびをしているのがキャサリン・ポッパー、キャサリンにネールを施しているのがサーシャ・ダブソン。ここまでお茶の間感丸出しのジャケットも珍しいです。リラックスの極みです。

 この三人によるバンドの名前はプス・ン・ブーツ、この作品がデビュー作です。プス・ン・ブーツとはカタカナにすると間抜けな響きですが、これはペローの童話「長靴をはいた猫」の英語題名です。何やらいかがわしいサイトもひっかかるところに絶妙のセンスを感じます。

 ノラ・ジョーンズはあのグラミー賞常連のノラ・ジョーンズで、この作品を発表した時期は「リトル・ブロークン・ハーツ」と「デイ・ブレイクス」の間です。サーシャとキャサリンはノラの友人で、ギターの練習をするために集まったことをきっかけに2008年にバンド結成です。

 サーシャは音楽一家に生まれ、ニューヨークのジャズ・シーンで活動してきた人です。本作の前年には「アクエリアス」というアルバムを発表しています。キャサリンもさまざまなアーティストと共演してきた名うてのミュージシャンです。

 さすがにプロのミュージシャンばかりですから、楽器の練習のために集まったといっても、いきなりステージでライブ活動を始めています。最初は観客は友達ばかりという内輪のライブだったそうですが、回数を重ねて、バンドとしての音になってきました。

 それでレコードを作ろうということになって、制作されたのが本作品「ノー・フールズ、ノー・ファン」です。羽目を外さないと楽しくない、という宣言通りのリラックスしたアルバムになっており、ジャケットのイメージ通りのサウンドが飛び出してきます。

 バンドの成り立ちから分かる通り、ノラはここではピアノを封印し、ギターに専念しています。あと少々のフィドル。サーシャがギター、ベース、ドラム、キャサリンがベースとギター、三人ともにボーカルをとっています。ギターはノラのみエレキで、あとの二人はアコギです。

 本作品から最初にシングル・カットされたのはニール・ヤングの2枚目のアルバムに入っていた名曲「ダウン・バイ・ザ・リバー」でした。もともとノラの大好きな曲でギターソロを弾くことが夢だったそうですから、まさにバンド結成の動機ともなった曲です。

 本作品にはライブ録音が3曲含まれており、これもその一つです。夢をかなえたノラのギターが凄いです。ヤングのギターもうねうねしていましたが、ノラのごつごつしたギターの味わいは格別で、キャサリンのベース、サーシャのドラムとの3ピース演奏はこれぞパンクです。

 本作品にはオリジナル曲が5曲、カバー曲が7曲収録されています。カバー曲はジョニー・キャッシュなどのカントリー系が多く、それ以外でもザ・バンドやウィルコなどカントリーと一脈通じる筋の通った選曲となっています。バンド名のブーツはカントリーの象徴ですし。

 サウンドは作りこまれることなく、むしろアマチュアっぽい感触を残しています。ノラのソロ・アルバムにおけるきめ細かなサウンドと対照的です。皆で楽しく音楽をするというのはこういうことだぞという宣言のようなアルバムです。聴いていると暖かいものがこみ上げてきます。

No Fools, No Fun / Puss n Boots (2014 Blue Note)