ECMを代表するギタリスト、テリエ・リピダルの1987年作品です。名義はテリエ・リピダル&ザ・チェイサーズで、ベースのビヨルン・シェレマイアとドラムのオーダン・クリーヴによるリズム隊とのトリオ編成です。ノルウェーの方で読み下しにちょっと自信がないのですが。

 ビヨルンとオーダンの二人がチェイサーズを名乗って活動していたわけではなくて、あくまでこのトリオで「テリエ・リピダル&ザ・チェイサーズ」です。このバンドの他にも二人はさまざまなミュージシャンと共演しており、ノルウェーきってのミュージシャンです。

 しかし、チェイサーズとはまるでロック・バンドの名前です。ECMですから一応はジャズに分類するのが普通なのですが、このバンドに限ってはロックと言ってもおかしくはありません。実際、オール・ミュージックのレビューでは「短命に終わったロック・バンド」と言い切っています。

 面白いことにジャズ畑で活躍する三人はいずれも音楽活動をロック・バンドで始めています。特にリピダルが十代の頃に加入したヴァンガードはノルウェーのチャートでそこそこ活躍したそうです。さらに彼はジミヘンに衝撃を受けてサイケデリック・バンドを結成しています。

 一方で、リピダルは現代音楽作曲家ジョルジュ・リゲティの音楽を聴いて作曲家兼ギタリストとして生きていく決意をした人です。ビヨルンもオーケストラでベースを弾いていたということですから、そちら方面からの影響も当然にあります。

 それになんだかんだいっても三人ともジャズでの活動が一番多いわけです。このアルバムでのサウンドはジャズと言えばジャズ、ロックと言えばロック、現代音楽と言えば現代音楽。まさに折衷主義的なサウンドが展開される素地は十分にありました。

 ギター、ベース、ドラムというトリオですけれども、リピダルはシンセサイザーと思われるキーボードでドローンをつけたりしています。楽器の音色にもこだわっており、このバンドのサウンドは徹底的に音響を重視した音の風景が身上であると思います。

 曲目の日本語表記が難しいのですが、静謐なアンビエント曲から、重いファンキーなベースがゆったりとしたリズムを刻む曲、極めて実験的な曲など、さまざまなスタイルの曲の中でサイケデリックなリピダルのギターが縦横無尽に駆け抜けます。

 タイトル曲「ブルー」はこれまたゆったりとためたリズムに甘い美しいギターを乗せたロック的な曲です。曲の表情はそれぞれ異なりますけれども、どの曲をとってもサウンドのテクスチャーが極めて美しく、派手さはないもののいつまでも聴いていたいアルバムです。

 ギタリストとしてはエリック・クラプトンではなくジェフ・ベック的です。音響指向はジミ・ヘンドリクスにも通じるところもあり、そういう意味ではやはりロック的な作品と言えます。若いリズム隊も控えめながら溌溂とした演奏を展開していますし。

 テリエ・リピダル&ザ・チェイサーズはこれが2枚目のアルバムです。前作「チェイサー」が1985年5月、本作品が1986年11月、次作が1988年8月の録音ですから活動は3年あまり。短命ではありますが、記憶に残るユニットです。

Blue / Terje Rypdal & The Chasers (1987 ECM)