メゾン・ブック・ガールはアイドルの中では楽曲派に分類されます。少なくともヒャダインさんはテレビでそう紹介していました。クロちゃんが言うところの楽曲派とはちょっと違う、サウンドだけでも十分に凄いという意味での楽曲派です。

 メゾン・ブック・ガール、通称ブクガをプロデュースしているのはサクライケンタです。サクライは高校生の頃から現代音楽を聴くようになったそうで、現代音楽にポップミュージックを組み合わせた「現音ポップ」と自称するサウンドでブクガに向き合っています。

 現代音楽と言っても、チャンス・オペレーションやら不協和音の洪水系ではなくて、彼が好きなのはスティーヴ・ライヒなどだそうですから、敬遠する必要もありません。現代音楽が既成の音楽を革新したように、ポップを革新していく覚悟がみられて気持ちが良いです。

 ブクガの始まりはBiSの終わりにありました。第一期BiSの解散コンサートにて、そのメンバーの一人コショージメグミを中心にしたブクガの結成を発表したというアイドル戦国時代らしい事件でもってブクガが始まったんです。

 メンバーは他に矢川葵、井上唯、和田輪で計4人組です。ちなみに矢川は講談社のミスiDコンテストのファイナリストになったことがあります。これは講談社のアイドル・オーディションで、これまでに稲村亜美や戸田真琴、眉村ちあきなどの個性派を輩出しています。

 本作品はブクガの4枚目のアルバムで、「海と宇宙の子供たち」と題されました。これまで同様、とてもアイドルのアルバムとは思えない現代音楽風というかECM風のアートなジャケットに包まれています。ニッポンプランニングセンターのシューヘイ・ホソイの作品です。

 アルバムはアイドルらしく通常盤、スタジオライブをブルーレイで添付した初回限定盤A、104ページもの書籍をつけたB、アルバム楽曲のインストCDをつけたamazon限定盤と4種類で発売されました。どれも魅力的ですが、私は通常盤を買ってしまいました。

 サウンドはすべてサクライが制作しています。唯一のゲストはアニメやCMまで幅広く活動するシュガービーンズで、1曲のみピアノを弾いています。曲もすべてサクライが作詞作曲しているのですが、最後の曲「思い出くん」のみコショージメグミが詞を書いています。

 これがブクガの一つの特徴となっているポエトリーリーディングです。コショージが聴き手のことを意識して書いたという詩はシュールの度合いが素直でしっとりと耳に入ってきます。アイドルらしいといえばアイドルらしい、聴き手と一対一で繋がれる詩です。

 全11曲中4曲はすでに発売されたシングル「soup」と「umbla」収録曲です。それもあって曲調はかなり振れ幅が広いのですが、アルバムとしての統一感は強いです。風、海、鯨、雨、雪といずれも曇天の光景が浮かぶ詞の世界と柔らかなサウンド。

 現音ポップはたとえばフェリシティー・レーベルのアーティストなどとも共通点があり、日本の現在を象徴するサウンドなのではないかと思います。ストレスの強い社会の中で、孤独な悲しみがサウンドに結晶し、それがしなやかな強さを生んでいる、そんなアルバムです。

umitouchunokodomotachi / Maison Book Girl (2019 ポニーキャニオン)