ノラ・ジョーンズの「『新章のはじまり』を告げる2年10ヶ月ぶりの最新作」、「ザ・フォール」です。最初の曲「チェイシング・パイレーツ」のイントロで響く太いギターの音色を聴くだけで、「新章のはじまり」という言葉に激しく納得してしまいます。

 ダイアモンド・ディスクとなった衝撃のデビュー作から3作連続で全米1位を記録し、数々のグラミー賞に輝いたノラ・ジョーンズです。同じような路線で余裕をかます選択肢をとらず、これまでと違うことをしたかった、と我が道を進みました。

 まず、パートナー探しを始めたノラは、大好きなアルバムだというトム・ウェイツの「ミュール・ヴァリエイションズ」でエンジニアを務めたジャクワイア・キングに白羽の矢を立てました。あの作品の独特のサウンドを作り上げたのですから凄腕です。

 キングは新たなミュージシャン探しにも積極的に協力し、ベック他でお馴染みのジョーイ・ワロンカー、トム・ウェイツともコラボしているマーク・リボー、エリカ・バドゥやアル・グリーンとの共演で知られるジェイムス・ポイザーなどが迎えられています。

 さらに曲作りにもお馴染みのジェシー・ハリスやライアン・アダムスなどの手を借りており、単独曲は全12曲中8曲にとどまっています。新しいサウンドには新しい人が必要だとあっけらかんと語るところはさすがはソロ・アーティストです。

 そんな新たなチームで作り上げられたサウンドは、冒頭のギターの音に象徴されるように、ヘビーなグルーヴが渦巻く作品になりました。これまで以上にリズム・セクションが強調されていて、より粗削りなサウンドにノラの美しいボーカルがバランスよく乗せられています。

 ノラは本作でこれまで以上にギターを弾いています。もともとピアノよりもギターで作曲することが多かったそうですが、アルバムでここまでギターをぶきぶき弾いたことはありませんでした。彼女のギターが刻むリズムがアルバムの色を象徴しています。

 キングのプロデュースするサウンドは1950年代ないし60年代のロックを思わせる録り方がされています。わざと角をとらない一見武骨な響きのサウンドが彼女のルーツでもあるテキサスを思わせます。ディープな南部サウンドです。

 最後の曲「ひとときの恋人」はノラが一人でピアノを弾きながら歌うのですが、そのピアノの音色がまたディープな南部です。恐らく弦を抑えているのではないかと思われる、残響の少ない打楽器のような音です。これまた本作品を象徴するサウンドです。

 こうした重いリズムが強調されたサウンドを作り出すことに注力したおかげで、ボーカルはずいぶんリラックスできたそうです。トム・ウェイツのようにことさらやすりをかけることなく、いつものルーズな雰囲気のボーカルです。これがいい。やっぱりいいです。

 白いドレスにシルクハットといういで立ちもまたぴったりです。セントバーナードにペルシャ絨毯も含めて、私はドクター・ジョンを思い出してしまいました。このアルバムのサウンドならばお互い通じ合うものがあるのではないでしょうか。素敵なアルバムです。

The Fall / Norah Jones (2009 Blue Note)