プリンスが天に召されてから3年目に発表された死後リリース作品第二弾です。今回は、「プリンスが他アーティストに提供した楽曲の、プリンスによるオリジナル・ヴァージョンを集めた楽曲集」です。ほとんどが1980年代前半の録音です。

 さすがに有名な曲が並んでいます。まず全米チャートを制した「ナッシング・コンペアード・トゥ・ユー」が光ります。もともとはザ・ファミリーというザ・タイムの後継バンドに提供された曲ですが、全米1位となったのはシネイド・オコナーのカバー・バージョンです。

 1990年に斬新かつ感動的なMVを伴って世界的なヒットを記録しました。ここに収録されたデモ音源は1984年に制作されたもので、彼の没後2018年にシングルとして発表されています。これが唯一の既発表曲ということになります。

 これに続く大ヒット曲はバングルズの「マニック・マンデー」でしょう。ここで収録されているバージョンでは、プリンスお気に入りのシンガー、ジル・ジョーンズとアポロニア6のブレンダ・ベネットを従えて、殿下が楽しそうに歌っています。

 シーラEの曲は共作が3曲、ピアノ・バラード「真昼のランデヴー」、シーラEのパーカッションの腕前を見せびらかすかのような「ホリー・ロック」、「ディア・ミケランジェロ」、プリンス単独がチェロが活躍する新鮮な「グラマラス・ライフ」です。

 さすがにシーラEは別格ですね。プリンスは共作じゃなくても、曲のクレジットはシーラEとしています。太っ腹です。ザ・タイムも同様に別格で提供した名曲「ジャングル・ラヴ」と「寂しいジゴロ」の2曲を共作扱いしています。前者は共作ですが、後者は実は単独のようですね。

 プリンス周辺のアーティストでは他にアポロニア6、ヴァニティー6、マザラッティ、ジル・ジョーンズ、タジャ・シヴィルへの提供曲がそれぞれ1曲ずつ収録されています。このあたりはもうプリンスと一心同体のようなものです。どっちもオリジナルのようなものですね。

 一方、バングルズと並んで少し事情が違うのはマルティカです。こちらは彼女のヒット・アルバム「マルティカズ・キッチン」への提供曲「愛がすべて」で、彼女との共作です。正味の共作で、見事に全米トップ10ヒットとなりました。さすがです。

 面白いのはケニー・ロジャースの「ユーアー・マイ・ラブ」です。カントリーの大御所ケニー・ロジャースが歌っています。プリンスはもともとロジャースのために書いたわけではなく、ロジャースが気に入って再録した模様です。プリンスにしては確かに珍しいタイプの曲です。

 驚かされるのはこれがデモ録音だということです。デモなのにどの曲も作品としての完成度が極めて高いです。しかし、殿下水準ではここからまだ進化するのでしょうね。少しリラックスして、らしくないタイプの曲も楽しげに軽く演奏していますから。

 プリンスは新人歌手のために録りためていた曲を発掘して提供することもありました。やはり殿下の場合には、彼の人生全体が一つの作品であって、一瞬一瞬に意味があるのでしょう。プリンスの全体像を理解するための一つのピースがまた増えました。

Originals / Prince (2019 NPG)