このアルバムは1970年7月5日に発表されました。この日は何の日かというと藤圭子の19歳の誕生日です。19歳です。♪十七、八にゃもう戻れない♪と歌う19歳。♪酒も飲みます 生きるため♪って、まだ飲んじゃいけない19歳です。

 「女のブルース」は藤圭子のセカンド・アルバムです。20週連続1位を記録したデビュー作「新宿の女」を蹴落として1位を獲得すると、そのまま17週も連続して1位をキープしました。これに代わったのが前川清とのデュエット・アルバムで、それが5週。

 恐るべき大ヒットといってよいでしょう。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」やフリーとウッド・マックの「噂」に匹敵するチャート1位独占ぶりです。より年代的に近い例でいけばビートルズでしょうか。とにかく日本の歌謡界の1970年は藤圭子の年でした。

 シングル曲としても「女のブルース」はミリオン・セラーとなっており、8週連続で1位です。これに「圭子の夢は夜ひらく」が続けて10週連続1位、本作収録の「命預けます」、「女は恋に生きてゆく」が続いて、トップ10に42週間連続で藤圭子の名前が刻まれました。

 凄まじい人気ぶりが分かるというものです。私は当時10歳でしたけれども、リアルタイムで藤圭子のこの人気ぶりを体験しています。五木寛之が「怨歌」と評した凄みのある歌唱は子ども心にも深い印象を残しました。遠い大人の世界だと思っていたのに19歳。恐ろしい。

 藤圭子は作詞家の石坂まさをのもとからデビューしています。石坂にとっても藤圭子のプロデュースは演歌の世界で大御所にのし上がるきっかけになっています。このアルバムは全曲オリジナル、作詞はすべてその石坂、作曲でも3曲が彼の手になります。

 作曲や編曲には他にさまざまな人が名を連ねています。しかし、自身がトロンボーン奏者の池田孝やジャズ畑の小谷充、現在もボカロPとして活動する彩木雅夫など多彩ですけれども、ここはすべてが石坂色に染められています。ストレートな演歌ばかりです。

 さすがに「演歌の星を背負った宿命の少女!!」藤圭子のちょうどよい具合の低めのハスキー・ボイスは素晴らしいです。喜怒哀楽すべてを声に乗せた情感たっぷりの表現力には背筋が凍ります。ただ者ではない感じがたまりません。

 ただし、2020年現在の感覚からは石坂の歌詞の世界はかなりしんどいです。全曲に男にすがって生きるしかない夜の女の生態が描き出されています。ここにあるのは昭和の男の脳内にのみ存在する、こうあってほしい女性像です。ミソジニー丸出しと言ってよいでしょう。

 こういう歌詞は逆に男性歌手が歌えばリアルな感じがします。すんなり聴ける。女性だと実はなかなか歌詞に感情移入できないのではないでしょうか。エディット・ピアフじゃないですが、電話帳を歌っても感動的だと思われる藤圭子だからこそ成功した作品でしょう。

 藤圭子がロック歌手でデビューしていたらと妄想するのは楽しいです。和製ジャニス・ジョプリンと言われたのではないかと感じます。ミリオン・セラー連発ですから演歌もいいのですが、この凄みはその枠に収めるには強烈すぎたと思います。

Onna No Blues / Keiko Fuji (1970 RCA)