交錯した高架道路に蟻がたかっているジャケットを見ると、もはや中国の都市の風景かと思ってしまうほどに世界は変わりました。現代中国の光景はドリーム・シアターと親和性が高いようにも思えてきます。まさに統制のとれた混沌です。

 ドリーム・シアター9作目のスタジオ・アルバムは「システマティック・ケイオス」と題されました。今回のレコード・レーベルはワーナーに身売りしたロードランナーです。ロードランナーは翌年にはベスト・メタル・レーベルに選ばれることになります。

 この作品の録音は2006年の9月から翌年2月までニューヨークのスタジオで行われました。この直前の夏は彼らがデビューしてから10年目にして初めてツアーを休みました。十分に休養をとって、バンドは最高の状態でアルバム制作に臨んでいます。

 ここのところ、アルバムを制作するに際しては何らかの核となるテーマを設定していたドリーム・シアターですけれども、本作はまっさらの状況で制作に入ったそうです。マイク・ポートノイにはアイデアがあったようですが、わざと共有せず、成り行きにまかせました。

 ポートノイのアイデアの一つは、「メトロポリス・パート2」から綿々と続くアルコール依存症組曲の一部となる「リペンタンス」に現れています。珍しくメロウなこの曲では謝罪する声がコラージュされているのですが、そこには豪華ゲストが参加しています。

 イエスのジョン・アンダーソン、マリリオンのスティーヴ・ホガース、メガデスのデイヴィッド・エレフソン、ジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイなど、メタル界、プログレ界からさまざまな有名人からの謝罪が聴けます。さすがはミュージシャンズ・ミュージシャンらしい人脈です。

 また、ジェームズ・ラブリエが作った「プロフェッツ・オブ・ウォー」ではバンドのウェブサイトでの呼びかけに応じてスタジオに押し寄せたファンによる合唱が収録されています。みんなのドリーム・シアターともいえるコンセプトが映えるのはバカテク・バンドならではです。

 作品の要となっているのは「イン・ザ・プレゼンス・オブ・エネミーズ」という曲です。全部で25分もある、韓国の漫画に影響された大曲で、この曲ができてアルバムのトーンが決まりました。ライブでは続けて演奏されますが、これで始めたいし終わりたいと二つに分けられました。

 いっそこの曲を膨らましてコンセプト・アルバムにしても良かったのでしょうが、ここではあえてそうせずに白地から出てきたアイデアを次々と埋め込む構成にしています。メンバー間の関係がかつてなく良好だったからこそ気を楽に楽しんだということでしょう。

 最初のシングルとなった「コンスタント・モーション」や続く「ダーク・エターナル・ナイト」など佳曲ぞろいで、ちょうどいい塩梅のプログレかつメタルな安定のアルバムです。ポートノイのもはや壁のようなバスドラさばきを始め、メンバー各人の技量には改めて感嘆します。

 折り目正しさはそのままに、あの手この手で複雑なサウンドが繰り出されると、早弾きジョン・ペトルーシの緩やかなアルペジオが妙に感動的だったり、構成の妙に酔わされます。音楽的なあまりに音楽的なバンドの傑作がまた一つ増えたというところです。

Systematic Chaos / Dream Theater (2007 Roadrunner)