今をときめくWACKの原点となったプー・ルイのソロとしては10年ぶりとなるアルバム、その名も「みんなのプー・ルイ2」です。最初のソロ・アルバム「みんなのプー・ルイ」の直後にBiSが始まりましたから、本作品もまた新たな出発を寿ぐゲン担ぎのアルバムです。

 実際、プー・ルイは新たに会社を立ち上げ、社長兼プロデューサー兼メンバーとして新グループ、PIGGSを結成してのデビューを控えています。この作品で景気をつけて、新たな地平に挑んでいく、やはりWACKでもプー・ルイは特別な存在です。

 もともとプー・ルイはWACK社長の渡辺淳之介が働いていたつばさレコードが開催した「川嶋あいに続け!」というオーディションに合格して芸能界入りしています。ソロとしては鳴かず飛ばずだった彼女がアイドルグループを始めたいと言い出したことがBiS結成になります。

 その後WACKの快進撃が始まるわけですが、プー・ルイはソロ・アルバムを出した後、BiSやビリー・アイドル、ルイ・フロンティック・赤羽・ジャパンなどで活躍します。それもいろいろあって、今回のPIGGSに行き着きました。そのお祝いがこのアルバムです。

 プー・ルイと渡辺との関係には険悪な噂がいろいろと伝わっていますが、渡辺は新会社に出資していますし、このアルバムの制作も渡辺が持ち掛けたそうですから、やはりプー・ルイは別格に扱われています。なんだかいい話ですね。

 本作品は2枚組で発表されています。1枚目は新曲ばかり8曲、2枚目は「みんなのプー・ルイ」の再録音です。聴き比べて楽しむこともできる仕組みですけれども、新しくトラックがデザインされて再録音されているので普通に1枚目と地続きです。

 聴き比べの妙はプー・ルイによる歌詞の過去と現在です。本人曰く、「『10代の恋愛』から『アラサーの現状』になった」歌詞です。♪くしゃくしゃ笑顔を隠すのに精一杯♪から♪ふがふが鼻息 壮大に山登る♪まで、10年の歳月は大きいですね。

 「みんなのプー・ルイ」というタイトルは、レコーディング中に渡辺に嫌味を言われたことに対して、「軽口で、『ま、みんなのプー・ルイですからね!』って言い返した」ことからつけられたそうです。プー・ルイの頭の良さを表すエピソードです。さすがザ・アイドルです。

 この作品は、松隈ケンタを含めた「『あの三人が10年経ってこうなりました』みたいな記念のアルバム」です。ただし、『みんな大きくなりました。私以外は』というか」。やはりプー・ルイは頭が良さそうです。しっかり生き残っているのはこの頭の良さゆえですね。

 もちろんプロデューサーは松隈ケンタで、制作が立て込んでいる中で「キュッと作った」感じだそうです。松隈率いるスクランブルズのいつものロック・サウンドが全開なのですが、WACKの他のグループと比べてもアイドルっぽいのが面白いです。

 プー・ルイの甘くてべったりしている歌声の特徴も残しつつ、しゅっとした素直なロックをまっすぐ歌っています。肩ひじ張らない軽い感じのアルバムになっており、これはこれで楽しめます。こんなお祝いをされる愛されキャラのプー・ルイ、彼女の新たな出発を喜びましょう。

参照:「bounce436 2020/03」出嶌孝次(タワー・レコード)

Minna No Pous Lui II / Pous Lui (2020 Wack)