意味深なジャケットを見て、あれかな?と思った人も多いことでしょう。これはヒプノシスのストーム・トーガソンがデザインしています。プログレッシブ・メタルですから、プログレ・ジャケット大王のヒプノシスが登場するのは必然でした。

 ドリーム・シアターの4作目のスタジオ・アルバム、「フォーリング・イントゥ・インフィニティ」です。この前にミニ・アルバム「チェンジ・オブ・シーズンズ」が発表されており、そこから数えて2年ぶりの作品です。今回も時間がかかりました。

 時間がかかった理由はレコード会社にあります。創作意欲旺盛な人たちですから、どんどん曲はできていましたが、レコード会社は録音のゴーサインをなかなか出しません。業をにやした彼らは一時引退まで考えたとのことです。

 ようやくゴーサインが出たのは1997年3月のことで、そこから一気呵成に制作が進んでいきます。よほど溜まっていたのでしょう、またまた彼らは2枚組を仕上げてしまいます。しかし、予算の制約から結局1枚に収めさせられてしまいました。

 2枚組と軽く言っていますが、CD2枚組であることを忘れてはいけません。ドリーム・シアターのアルバムはたとえ1枚であっても70分を超えることは標準的であり、LP時代だとそれだけでゆうに二枚組です。CD2枚組だとLP3枚以上です。恐ろしいことです。

 さらにレコード会社は彼らに短くてラジオ向けの曲を書くようにプレッシャーをかけます。マイク・ポートノイはあくまで戦い、ジョン・ペトルーシはしぶしぶ従おうとしました。一つの表れがキッスを手掛けたデズモンド・チャイルドの起用です。それっぽい一曲が登場しています。

 面白いことにこうした事情は彼らの公式サイトの本作品の解説に記載されています。彼らの気持ちが吐露されていると考えてもよさそうです。そうとう頭に来ていたのでしょう。そんな中でもきっちりと作品を仕上げたのですから大したものです。

 前作制作後に脱退してしまったキーボードのケヴィン・ムーアの後任にはデレク・シェリニアンが参加しました。ミニ・アルバムにも参加していましたが、フル・アルバムへの参加はもちろんこれが最初です。ただ、彼はこの後脱退しますから、結局これが最後になりました。

 またプロデュースにはケヴィン・シャーリーが起用されました。ケヴィンの直前の仕事はエアロスミスの「ナイン・ライヴス」です。過去にはプログレ・メタルの祖ラッシュも手掛けていますから、彼らのサウンドとの相性がよいと思ったのでしょう。

 シャーリーは「バーニング・マイ・ソウル」のミドル部分をカットして「ヘルズ・キッチン」として独立させるなどいかにもプロデューサー的な手腕を発揮しています。「ホロウ・イヤーズ」や
「アナ・リー」のようなメロディーが印象的なバラードを配したことも彼の見立てでしょうか。

 レコード会社のプレッシャーは功を奏して、プログレ色とメタル色がやや薄れた作品になり、聴きやすくなりましたが、前作ほども売れませんでした。こういう時には会社の思惑は外れるものです。私は好きなのですが、あまりドリーム・シアターらしくないなとは思いました。

Falling Into Infinity / Dream Theater (1997 EastWest)