ほとんど採算とれず、をレーベル名としたBBEは1996年に出来た英国のレーベルです。ヒップホップDJたちのコンピレーションをリリースする目的で設立されただけあって、BBEが送り出すクラブ・ミュージックのコンピ盤には定評があります。

 その中でも「キング・オブ」シリーズは細分化されるクラブ音楽をジャンル別に掘り下げたもので、本作までにディスコ、ファンク、ヒップホップ、本作以降、ジャズ、テクノ、レゲエ、エレクトロ、ドラムン・ベース、そしてレコード・ディグに的を絞ったディッギンが発表されています。

 このシリーズではキュレーターをその筋の重要人物に依頼する習わしとなっています。本作品「キング・オブ・ハウス」で白羽の矢が立ったのはマスターズ・アット・ワークの二人、ケニー・ドープとルイ・ヴェガです。それぞれが1枚ずつ担当し、2枚組で発表されました。

 二人は1990年からマスターズ・アット・ワークを名乗って活動しています。ニューヨリカン、すなわちニューヨーク生まれのプエルトリカンであった二人は、多様な音楽的バックグラウンドと実験精神でニューヨーク・ハウスに旋風を巻き起こしました。

 さまざまな名義での活動のうち、特に有名なのはニューヨリカン・ソウルです。サンプリング中心のハウスに生演奏を持ち込んだのは彼らの功績だと言われます。根っからハイブリッドなサウンドを作ってきた人たちです。

 ケニーはBBEから依頼を受けた時に、「単なるハウスのコンピじゃなくて、ハウス創造の父たちに敬意を表したい」と思ったそうで、ビッグ・ヒットというよりも自分がブルックリンのレコード店で働いていた時に発表された曲を選んでいます。パーティーさながらの選曲です。

 そんなわけで先にケニーが1枚選び、その後にルイが選んでいます。彼も自分がかけ出しDJをやっていた1980年代後半の曲を選んでおり、DJとして聴衆に想い出をよみがえらせ、フロアが笑顔になって盛り上がる場面を想像しながら、自分のDJ人生を振り返っています。

 二人が選んだトラックは全部で42曲あります。フランキー・ナックルズやラリー・ハードにマーシャル・ジェファーソンなどのシカゴ・ハウスのオリジネーターや、デトロイト・テクノのエレベーター、ケヴィン・サンダーソン、ブレイク・バクスターなどの父へのリスペクトが十分です。

 ジョー・スムースの「プロミスト・ランド」やラリー・ハード、ミスター・フィンガーズの「キャン・ユー・フィール・イット」などの超有名曲もありますし、アフロ・ハウス・クラシックとされるコロコロの「ノー・スモーク」、マスターズ・アット・ワーク自身の曲もあります。

 全曲、1980年代後半から1990年代初めにかけてのハウス・クラシックスです。42曲2時間半をこのビートとともに過ごすことの喜びというものを噛み締めることになります。二人の選曲の妙は思惑通りの効果をもたらします。その頃はハウスを聴いていなかった私でも。

 さまざまに変化しつづけるクラブ・ミュージックから見れば、この時代のハウス・サウンドは一周回ってクラシックとしての輝きを深めています。4つ打ちビートの魅力を再認識させられた2時間半でした。踊らなくても大丈夫。十分に気持ちがいいです。

The King Of House / Masters At Work (2005 BBE)

ミックス違いですが。