スクリッティ・ポリッティは人気も高い重要なバンドでしたけれども、なぜかCDは入手困難です。私が見逃しているわけでもなく、実際に再発されることが少ない。このユニットの特異な性格を表しているようでとても興味深いです。

 この作品は2011年に発表されたスクリッティ・ポリッティのベスト・アルバムです。彼らのキャリアをコンパクトにまとめた丁寧な作りになっていますから、てっとり早くスクリッティ・ポリッティの全貌を知るにはもってこいです。

 スクリッティ・ポリッティはロンドンにて1978年に結成されました。中心になるのはボーカルとギターのグリーン・ガートサイドです。彼にドラムのトム・モーリー、ベースのナイアル・ジャンクスを加えたトリオでスタートしました。

 バンド名はイタリア共産党を創設したアントニオ・グラムシの著作からとっていることからも分かる通り、当初はポスト・パンク勢にありがちなアンチ商業主義で政治的主張が強いバンドでした。この当時の曲は1曲だけ本作品に収録されています。

 1980年代になると彼らはポップに変身します。グリーンは最も純粋なポップこそが最も奇妙なものであるという逆説に目覚めた模様です。ポップの内側に入ることで、資本主義を超えることができるのだと、当初の主張はそのままに追及する世界を変えました。

 1982年のデビュー・アルバム「ソングス・トゥ・リメンバー」はトリオによるポップな作品です。グリーンはマイケル・ジャクソンやラヴァーズ・ロックと呼ばれるモダン・レゲエに色濃く影響された英国流ポップを展開して英国で12位となるヒットを飛ばします。

 しかし、ブレイクスルーはその次です。グリーンはバンド・メンバーをアメリカンのデヴィッド・ガムソン、マサカーやマテリアルのフレッド・マーに変え、最先端のシーケンサーやら何やらを大胆に取り入れた2枚目「キューピッド&サイケ85」を発表します。

 ここでのサウンドは1980年代の礎となりました。よくあるサウンドだと思ったとしたら、元祖である彼らの影響力がいかに大きいかということを自ら証明していることになります。本作品は冒頭から5曲をこのアルバムからとっています。

 続いて1988年に同じメンバーで「プロヴィジョン」を発表したのち、10年のブランクを経てもはやソロ・ユニットとなって多数のゲストと「アノミー&ボノミー」、さらに2006年にほぼソロ・アルバムとなる「ホワイト・ブレッド、ブラック・ビア」で、とりあえず本作までの全作品です。

 本作では最後のアルバムを除いて各アルバムから満遍なく選曲されています。さらにミスター・ラヴァーマン、シャバ・ランクスとのシングル、ガムソンとの未発表曲が加わります。マイルス・デイヴィス、ロジャー、ロバート・ワイアット参加曲もきっちりと収録されています。

 マイケル・ジャクソン・タイプのソウルをデジタル・サウンドで展開しつつ、極上の英国流ポップがすべてを束ねているという圧倒的に新鮮なユニットでした。ため息がでるほどのハイセンスなポップです。なぜに入手困難が続いているのか不思議でしょうがありません。

Absolute / Scritti Politti (2011 Virgin)