今では親レーベルだったベガーズ・バンケットを吸収するに至った4ADレコードの性格を決定づけたのはコクトー・ツインズでした。そのコクトー・ツインズがいよいよ4ADを離れることになりました。4ADの創設者アイヴォ・ワッツとの間に諍いがあったようです。

 この作品はフォンタナ・レコードに移籍してから初めてのアルバムです。タイトルの「フォー・カレンダー・カフェ」はアメリカの旅作家ウィアム・リースト・ヒート=ムーンの著作から採られているそうです。いつも彼らの命名センスには脱帽します。

 本作品の第一の特徴はサウンドが露わになってきたことです。ロビン・ガスリーは「以前はいつもオーバーダブやメロディーをもう一つ欲しがっていたんだ。自分の音楽が良くないんじゃないかっていたたまれなくてね」と語ります。

 「たとえ50人の人が好きになってくれても、一人がそうじゃないともうだめ、そんな風に考えるネガティブな性格」のロビンですが、この作品では曲を信頼できるようになりました。まあ露わといってもコクトー・ツインズ基準での裸のサウンドですから心配には及びません。

 それからエリザベス・フレイザーのボーカルで歌詞が一部聴きとれるようになりました。これは大きな違いです。たとえばシングルになった「エヴァンジェリン」では、♪ゼア・イズ・ノー・ゴーイング・バック、アイ・キャント・ストップ・フィーリング・ナウ♪とはっきり聴こえてきます。

 「私は極端から極端へ行きがち」だという彼女は、一方の極に全く聴きとらせない「ブルーベル・ノール」、もう一方の極に本作を挙げています。「ここではすべてが英語で、全部聴きとれる」。残念ですが、全部は到底聴きとれません。ネイティブの方でも無理でしょう。

 エリザベスは母になって3年、スタジオでは娘の心配をし、家では音楽の心配をする日々を続け、アルバム発表後のツアーを終えると倒れてしまいます。そして、酒やドラッグで問題を抱えていたロビンとの関係は破局を迎えます。

 この前後関係はよく分からないのですが、アルバム制作時には大変な問題を抱えていたことだけはよく分かります。そういう時期にエコーの森から出てきて、ポップさをましたサウンドを作るのですから、アーティストというのは面白いものです。

 アルバムは英国では13位と前作には及びませんでしたが、米国では前作を上回る78位を記録しました。シングル・カットされた「エヴァンジェリン」と「ブルービアド」もそこそこヒットしました。特に後者は米国のモダン・ロック・チャートに顔を出しています。とりあえずよかった。

 なお、この作品には會津の殿様さんことタテミツオがギターで参加しています。日本ツアーの際にイシバシ楽器で彼らを接客したのが出会いといいますから面白い。他の人のどんなサウンドでも再現できるギターの腕前と寿司づくりでバンドに大いに貢献しています。

 コクトー・ツインズらしいサウンドはここでも健在ですが、あえてオーバーダビングを減らしたサウンドには幾重にも彼らの思いが織り込まれているようで、音を減らした分だけ、メンバーそれぞれの個性が分厚くなってきたように思います。ポップなのに重いアルバムです。

Four-Calendar Café / Cocteau Twins (1993 Fontana)