コクトー・ツインズによる5枚目のアルバム「ブルー・ベル・ノール」です。よくもこんなにかっこいいタイトルをつけるものだと感心してしまいますが、この名前はユタ州の丘の名前だそうです。まあ次作がラスベガスですから意外でもないのかもしれませんが。

 前作にはディス・モータル・コイルのプロジェクトで忙しかったサイモン・レイモンドが参加していませんでしたが、本作にはしっかり戻ってきました。結果的にアルバム毎にトリオ、デュオ、トリオ、デュオと交互に形態が変わるという面白いバンドです。

 サイモンに言わせると、この時期は三人が音楽面でも生活面でも大変うまくいっている時期で、創造性と自由に満ち溢れた時期だと感じていたそうです。エリザベス・フレイザーとロビン・ガスリーの間には子どもができましたし、サイモンも結婚を控えていました。

 「喜びが満ち溢れており、とても生産的だった。本当にレコードを作るのが楽しかったんだ」との言葉通り、耽美派の代表だったコクトー・ツインズにしては、輪郭がくっきりした明るいサウンドで埋め尽くされています。心底楽し気なアルバムです。

 一方、エリザベスは、本作を今までで一番簡単にできたレコードだとしつつ、本作が彼らのつじつまを合わせる技術を表していると語ります。彼女は心の防衛機能としての否認の状態にあってもなお作品をつくることができたんです。何に対する否認かは後に見当がつきます。

 4ADのアイヴォ・ワッツは、ここでのエリザベスの歌唱を高く評価しています。特にアメリカでもヒットした「キャロラインの指先」を「絶対的に美しく、今でも震える」と絶賛しています。ちなみにキャロラインはジャケットに写っている手の持ち主です。

 アイヴォが言う通り、ここでのエリザベスの歌声は本当に美しいです。初期のゴシック調からは少し離れ、輪郭がくっきりと浮かび上がってもなお儚い美しさは変わらない。ロビンとサイモンのサウンドもエコーの森から半身出てきてもかっこいいです。

 彼らの曲作りは、ロビンとサイモンがトラックを作った後に、エリザベスがボーカル・ラインとメロディーを作っていくのだそうですが、ここでは「キスト・アウト・レッド・フロートボート」にて逆のやり方を試してもいます。そんな秘密があったとは面白いものです。

 そのエリザベスのボーカル、歌詞が全く聴き取れません。本人も「単語一つも聴き取れないでしょう」と話しています。かと言って架空の言語というわけではなく、英語であろうと思われます。口ごもっているわけではない、透き通る声なのに聴き取れない。面白いです。

 本作には短い曲が10曲、全部で30分強のアルバムです。曲が長くてもおかしくない耽美派なのに短い。しかし、それが10曲集まると一つの組曲のように聴こえてきます。各楽曲を覆うムードには共通項が多い。よくできた作品です。

 日本では1990年に「アソル・ブローズ」が車のCMに使われてシングル・カットされました。おしゃれな雰囲気が漂う曲ですから自動車には合うかもしれません。カップリングはもちろん「キャロラインの指先」でした。そこは外さない。

Blue Bell Knoll / Cocteau Twins (1988 4AD)