水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」がアニメ化されたのは1968年のことです。当時少年マガジンの読者でもあった8歳の私などはすっかりこのアニメに夢中になってしまいました。かなり怖くて理屈っぽい「墓場の鬼太郎」も捨てがたいのですが。

 幼少期の記憶というのは深く刻まれているだけに融通がきかないものです。熊倉一雄によるあの主題歌のインパクトは相当なものでしたから、吉幾三に代わった時にはどうしても違和感がぬぐえませんでした。大切な思い出を汚されるような気になったものです。

 時は流れて私にも子どもができ、再び鬼太郎がアニメになって戻ってきました。この時、この手があったか、と思わず膝をうったのは、大切な主題歌に憂歌団が抜擢されたことでした。熊倉の粘っこい歌唱を、木村充揮がさらに粘っこくブルースで歌う。いや素晴らしい。

 この作品は憂歌団が主題歌を歌った「ゲゲゲの鬼太郎」第四シリーズ初の劇場用映画「大海獣」のオリジナル・サウンドトラック盤です。子どもをつれて東映アニメフェアに行った際にねだられて買ったものです。何しろ憂歌団ですから、買わないわけにはいかない。

 このサントラには憂歌団が歌う「ゲゲゲの鬼太郎」と「カランコロンの唄」が最初と最後に収録されています。関西ブルースの重鎮、憂歌団の演奏は、ブルース臭がぷんぷん漂っていて、ギターの音色も申し分ありません。熊倉一雄へのリスペクトもたっぷり。

 これだけでもこの作品の価値はあったのですが、途中のサントラ部分がとても面白かったのでさらに満足度は高まりました。サントラの作者は和田薫、いずみたくが作曲した憂歌団の歌うテーマ曲以外はすべて和田の作曲です。繰り返されるテーマ曲の編曲も和田です。

 和田薫は1962年に下関で生まれており、この年まだ34歳です。東京音楽大学作曲科を首席で卒業した後、ヨーロッパで活動し、1988年に帰国してからは、「アニメや映画・テレビ・舞台・CDドラマ・イベント音楽等幅広く活動」しています。巌流島観光大使でもあります。

 大学でゴジラ伊福部昭に学んでいること、本作の前年には松竹映画「忠臣蔵外伝四谷怪談」にて日本アカデミー賞音楽賞を受賞したこと、もともとホラー向きな性格をもつ現代音楽の世界でも活躍していること、などから和田は妖怪ものととても相性が良いことが分かります。

 このサントラではテーマ曲がアクション、スロー、マーチ、バトル、ピースの5種類に編曲されて映画を盛り上げます。重要な場面でテーマ曲が出てくるのは子どもにとても親切ですね。それに「ねずみ男ジャングルうろうろ」のねずみ男もとても分かりやすい。丁寧なサントラです。

 和田はここでは箏や尺八、三味線など邦楽器を使ったり、南方妖怪にあててガムランっぽい楽器を使ったりと、音色にこだわったサウンドを展開しています。私が好きなのは「鬼太郎変身」です。パーカッションの使い方から現代音楽風の曲の作りまでかっこいいです。

 子ども向けアニメのサントラとして劇に寄り添いつつ、音楽には妥協せずにしっかりと作編曲された曲を届ける。こういう音楽を聴いて育つのは大変結構なことです。欲を言えば、演奏者のクレジットもちゃんと入れてほしかった。こちらはレコード会社の姿勢の問題ですね。
 
GeGeGe No Kitarou Daikaijuu OST / Wada Kaoru (1996 WEA)