コクトー・ツインズは1980年にロビン・ガスリーと幼馴染のウィル・ヘッジーの二人によって故郷スコットランドのグランジマスで結成されました。人口が2万人に満たない小さな町です。やがて彼らはローカル・ディスコにてエリザベス・フレイザーをリクルートします。

 DJをしていたロビンは、バースデイ・パーティやらポップ・グループをかけても平気で踊っている彼女を見て友達になったそうです。その時に彼女が「恐らく歌えるんじゃないか」と思ったといいますから直感というものは馬鹿にできません。

 ウェイトレスになりたいと思っていたエリザベスは、何でか知らないうちにバンド活動を始めていたと言っています。ただし、極端にシャイな彼女は自信がもてず一度バンドをやめています。しかし、ロビンと恋仲になっていたため舞い戻るというドラマがありました。

 彼らはバースデイ・パーティのライブにて楽屋に押しかけ、快く迎えてくれたドラムのフィル・カルバートから彼らの所属レーベル4ADのアイヴォ・ワッツを紹介されます。そこで彼らはデモ・テープを2組制作して、アイヴォとBBCのジョン・ピールに手渡します。

 電話を持っていなかったため、公衆電話の番号と電話が通じる時間を書いておき、、毎日5時から6時まで電話を待っていたそうです。必ず電話があると疑っていなかったといいますから若さは凄い。それで本当に電話がくるのですから大したものです。

 二人ともデモ・テープに興味を持ち、ジョン・ピールからは手紙が、アイヴォからは電話がありました。アイヴォは彼らをロンドンに呼んでレコーディングに入ると、エリザベスのボーカルに驚きます。デモ・テープではほとんど彼女の声が聴こえなかったんだそうです。

 大いに興奮したアイヴォは彼らにいきなりアルバム作りを持ち掛けます。出来上がった作品が本作「ガーランズ」です。あれよあれよという間に英国インディー・チャートを駆け上がり、音楽誌のレビューでも高い評価を受けました。大した新人バンドです。

 コクトー・ツインズのサウンドの特徴は、まずはもちろんエリザベスのボーカルです。この作品ではまだ地上にとどまっていますが、それでも半ば天上に上りつつある美しい歌声です。そしてロビンのエフェクトをきかせたギターとサウンド・メイキング。

 ただし、本作ではエンジニアに鼻であしらわれて、ロビンが通常行っていたドラム・ボックスをファズ・ペダルとギター・アンプに通すという操作ができなかったそうです。ロビンにとっては不満だったことでしょう。それでもずいぶんユニークなサウンドにはなっていますが。

 また、本作ではウィル・ヘッジーの重いベースが唸っているのも特徴の一つです。そのため、本作のゴシック色はかなり濃くなっており、スージー&ザ・バンシーズと比較したくなることがよくわかります。残念なことに彼はほどなくしてバンドを抜けてしまいます。

 ロビンは不満だったかもしれませんが、「ガーランズ」はすでにコクトー・ツインズの独特のサウンドが展開されています。霧のかかったような奥行きの深いギター・サウンド、この世のものとも思えないエリザベスの声。素晴らしいデビュー作でした。

Garlands / Cocteau Twins (1982 4AD)