セックス・ピストルズはもちろんロック・バンドですけれども、音楽以外の面でも世間を騒がせ続け、パンクを音楽にとどまらない社会現象としました。これはそのピストルズの姿を追ったセミ・ドキュメンタリー映画「ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル」のサントラです。

 ジョニー・ロットンはこのサントラ制作以前にピストルズを抜けており、バンドは瓦解していました。ロットンはこのプロジェクトへの参加を拒否していますが、1976年10月のデモセッション時の彼のボーカルがアルバムに使われています。欠かせませんよね。

 このサントラにはいくつもバージョンがあってややこしいのですが、手元にあるのは2012年に再発されたバージョンで全25曲が収録されています。サントラですからなおのこと、さまざまな曲が入り乱れており、ピストルズの波乱に富んだ一生が俯瞰できます。

 一つのくくりは76年のデモセッションです。ロットンのボーカルが聴ける9曲です。演奏はポール・クックとスティーヴ・ジョーンズによって一部差し替えられているそうです。チャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」やザ・フーの「サブスティテュート」などのカバーが聴けます。

 目玉の一つはデイヴ・グッドマンのプロデュースによる「アナーキー・イン・ザ・UK」、荒々しいロットンのボーカルが秀逸なパンク・チューンです。クリス・トーマスがいかに良い仕事をしたのかが分かるとともに、原初のエネルギーも凄いことが分かります。両方捨てがたい。

 もう一つのくくりはロットン後のピストルズです。ポールとスティーヴが列車強盗犯で服役中に脱走してブラジルに逃亡中のロナルド・ビッグスをボーカルに迎えて録音した「ゴッド・セイヴ・ザ・ピストルズ」と「ベルゼン・ウォズ・ア・ガス」の2曲。

 存在自体が超弩級のパンク男シド・ヴィシャスを説得して制作した「マイ・ウェイ」他の楽曲、ポールやスティーヴがボーカルをとる曲などなど。仕掛け人マルコム・マクラレンが次から次へと繰り出すメディア戦略にのった楽曲群です。

 やはり「マイ・ウェイ」がいいです。シドはこのアルバム発売前に薬物過剰摂取で21歳の生涯を閉じています。その前にはガールフレンドだったナンシーを刺殺した疑いで逮捕されるという何ともパンクに満ちた人生でした。永遠のパンク伝説にふさわしい怪演です。

 その他にはマルコム自身が気持ちよさそうに歌う曲、「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」や「EMI」のオーケストラ・バージョン、どうやら実在したらしいブラック・アラブスなるバンドによるピストルズ楽曲のディスコ版、「アナーキー・イン・ザ・UK」のミュゼット風フランス語版。

 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」と「バンビを殺したのは誰」は映画に出演していたテンポール・チューダーによる演奏です。これも含めて、とにかく、セックス・ピストルズ&マルコム・マクラレンのいかがわしさが全開になっていることが分かる猥雑感が凄いです。

 「偉大なロックンロールいかさま」と題するサントラです。青春のパンクなる幻想からまるで遠いところにあるのがセックス・ピストルズのいいところです。確実に爪痕を残し、多くの人の人生を変えたにもかかわらず、信仰の対象とはならない。実に潔い。

The Great Rock'n Roll Swindle / Sex Pistols (1979 Virgin)