この作品はパンクです。誰が何と言おうとパンクです。これをパンクでないと言う人がいたとしたら、その人が間違っています。なぜならセックス・ピストルズはパンクの定義ですから。たとえ、ピストルズの音楽が今の「パンク」とはかなり異なっていたとしても。

 ピストルズのサウンド自体はオーソドックスなロック・スタイルで、パンク特有の縦揺れリズムもそれほど顕著ではありませんでしたから、ジョニー・ロットンの凄まじいボーカルを除けばさほど革新的なものではありませんでした。しかし、これがパンクなんです。

 ピストルズはニューヨーク・ドールズのロンドン版を作りたかったマルコム・マクラレンがメンバーを集めて作ったバンドです。マルコムの見事なメディア戦略もパンク・ムーヴメントを作り出す大きな力となりました。このあたりの消息はもはや語りつくされています。

 私のピストルズ初体験はテレビでした。ほとんど日本で話題になっていない頃に「アナーキー・イン・ザ・UK」のMVがいきなり登場したわけで、度肝を抜かれて笑うしかなかったことを覚えています。同時に見たランナウェイズとともに大きな衝撃でした。

 パンクということではそれ以前にラモーンズやストラングラーズを見ていたのですが、ピストルズは何かが起こりそうだという期待と不安を掻き立ててくれました。明らかに他のバンドとは何かが違っていました。瞬く間に全英を席巻したパワーが凄かった。

 本作品は紆余曲折の後にようやく発表されたピストルズ唯一のオリジナル・スタジオ・アルバムです。驚いたことにプロデューサーはロキシー・ミュージックやプロコル・ハルムを手掛けていたクリス・トーマスです。パンクの手作り感覚とは一線を画しています。

 トーマスはバンドの勢いを表現すべく、テープの回転数を少しあげてレコードにしたそうです。この話を初めて聞いた時にはちょっとショックでしたが、バンドの音楽をよく理解している証左だと後に思い直しました。疾走感は七難隠します。
 
 バンドの看板はジョニー・ロットンのボーカルであることは疑いありません。そのボーカルがしっかりと中心におかれて、演奏もラジオ映えするミックスにされています。必ずしも楽器が得意なバンドではありませんから、トーマスの貢献はかなり大きいことでしょう。

 本作品には「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」、「アナーキー・イン・ザ・UK」、「プリティ・ヴェイカント」などの名曲が詰まっています。♪ノー・フューチャー♪、♪アイ・ドント・ケア♪といった聴く者を挑発する決めのフレーズの使い方が実に効果的で、これぞパンクの真髄でしょう。

 当時の英国の世相などとは無縁の日本でしたが、セックス・ピストルズの衝撃は大きなものがありました。初めて聴いた時に笑ったという人が結構います。嘲笑ではなく、突き抜けるような青空への呵々大笑、解放の笑いです。ピストルズの存在は大きかったんです。

 ピストルズについてはさまざまな人がいろいろと語っており、食傷気味ですが、私が読んだピストルズ本の中ではジョン・サベージの「イングランズ・ドリーミング」が出色の出来でした。ただのチンピラだと思うと大間違いな胸をえぐるお話の数々に涙してしまいました。

Never Mind The Bollocks / Sex Pistols (1977 Virgin)