ブレインは結構攻めたレコード・レーベルでしたけれども、オールに比べればおとなしいものです。グル・グルはオールから2作、ブレインから2作を発表しており、これはブレインからの2作目にあたるセルフ・タイトルの作品です。

 邦題は「不思議の国のグル・グル」とされました。バンド名だけでは何とも売りようがないと考えたのでしょうが、何とも安易な命名です。ここは本作の中の際立つ名曲「電気ガエル」を邦題にもってきてもよかったのではないでしょうか。

 最高傑作と言われることもある「カンガルー」を発表した後、グルグルから曲作りに大きな役割を果たしていたベースのウリ・トレプテが脱退してしまいました。新たにベースに加わったのはブルーノ・シャープなる人物です。

 この頃、グルグル様ご一行はハイデルベルグ近くの村に住み着いており、村人とひと悶着ありましたが、市長の仲裁で和解し、グルグルは村祭りでも演奏するようになったといいますから面白いです。村祭りでのグルグル。何とも楽しい光景です。

 本作品は「持ち前のユーモアとアイロニーが全開し、目くるめくサイケデリックな世界が繰り広げられる」アルバムであることは確かですけれども、オール時代の2作とはうって変わって、とてもクリアなすっきりしたサウンドになっています。

 A面は「サマンサズ・ラビット」で始まり、エディ・コクランばりのオールド・タイム・ロックン・ロールのメドレーが続き、最後は「ウーマン・ドラム」で占める構成になっています。この時代にあえてロックン・ロールを演じるというユーモア&アイロニーです。

 グルグルの中心人物マニ・ノイマイヤーはクラウト・ロックという言葉が嫌いだそうで、自身の音楽のことをアシッド・ロックないしアンダーグラウンドと呼んでいます。このタームは分かりやすいかもしれません。ちょっとらりった感じのロックです。

 活躍しているのはアックス・ゲンリッヒのギターです。ライナーの榎本隆一氏が指摘する通り、スター・ギタリストの多くよりも、彼の「音色に対する感覚は、確実に一枚上です」。きわめてクリアでいい音が始終鳴り響いています。かっこいいです。

 B面にはグルグルの最重要曲の一つ「電気ガエル」が収められています。ライブではこの曲を演奏する際、マニが被り物をつけて飛び回ったり、火を吹いたりするそうです。彼はドラマーですが、ちゃんとパフォーマンスができるパートも用意されています。

 ドイツ語の歌詞は、ファンが知りたがるくだらない質問が中心です。♪グルグルの意味は?♪、♪なぜ、音楽を?♪などなど。ある意味、こう聞くべきと社会から無意識に押し付けられているのではないかとマニは分析しています。鋭いですね。確かに意味ないですからね。

 グルグルの音楽はしばしばフランク・ザッパに影響を受けていると言われます。ロックン・ロールへの傾倒もそう考えると分かりやすいです。さまざまなスタイルを包含して、ごった煮のグルグル・グルーヴはひょうひょうと鳴り響いています。

Guru Guru / Guru Guru (1973 Brain)