2019年度後半のNHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」のオリジナル・サウンドトラックです。最近は2作出るようになってきましたが、これは最初の方です。まだ放送も半ばの頃に発表されました。それでも90曲の中から32曲を選んだという大変な作品です。

 朝ドラは見たり見なかったりなのですが、「スカーレット」はしっかり見ました。「半分、青い。」以来のことです。戸田恵梨香の凛とした佇まいについつい引き込まれて、毎日しっかり見続けました。朝ドラは配役も豪華なので、いろいろと話題には事欠きませんし。

 私の年代だと「転校生」の富田靖子がお婆ちゃん役をやることが少しショックでした。これがとても上手でまたショック。他にも、大島優子の吉本新喜劇的な演技開眼だとか、朝ドラ・大河でてそう芸能人ナンバー・ワンだった溝端淳平の朝ドラ初出演とか...。

 このサントラ、ドラマを見ている時からやたらと気になっていました。何かの拍子にぽこっと現れるサウンドがどれもこれもとても効果的でしたし、何といってもサウンドの幅がとても広い。ストリングスからエスニックからジャズから何やらいろいろ出てきます。

 音楽を担当したのは冬野ユミ。公式サイトによれば、「学生時代より、ピアニスト、キーボーディストとして活躍する傍ら、作曲家として映像・劇伴音楽に携わ」ってきた人です。1990年にアート・オブ・ノイズの影響で音楽制作ユニット、BANANAを結成しています。

 数多くの作品の中で一番のヒットは「アシガール」のサントラだそうで、黒島結菜・伊藤健太郎コンビとは相性がよさそうですね。もっとも、冬野が「『攻めるぞー!』と雄叫びを上げながら」本作の作曲に取り組んだ時には二人の出演は発表されていませんでしたが。

 今回の全32曲はドイツでのオーケストラによる録音、NHKスタジオでの録音、アルゼンチンでのケーナ他の録音に加えて、BANANAスタジオでのコンボでの録音と場所も変え、参加ミュージシャンもさまざまな組み合わせで制作されています。

 王道のオーケストラ曲「土、燃ゆ」や「花降る道」があるかと思えば、北村一輝お父さんに捧げたまさかのジミヘン「立つんだJoe」、冬野の「グラッペリ愛が止まらない」曲「シュガー」、三林京子の大久保さんには昭和歌謡の「Mrs.Oのお約束」と振れ幅が大きい。

 エルガーの威風堂々へのオマージュは「IF DO DOOO」。笑顔の秘密を明かすイッセー尾形の演技が素晴らしかった「フカ師匠」はシタールとタブラが出てきますし、「デスティニー」では東京とつないだブエノスアイレスからケーナが登場します。

 すべての曲にどこかしら語りたくなる機微があって、音楽の幅がとにかく広い。また、ヴィオラ、ギター、ピアノ、バイオリンなどのソロ楽器の音色を丁寧に響かせる術が素敵です。極めつけは「ボーカルの音素材をパズルのようにつなぎ合わせ」た曲「スノー・ドロップ」でしょう。

 そこはかとなくドラマの各場面を思い出しつつも、それもスパイスの一つにすぎません。あくまでここにある音楽が主役です。これだけいろんな曲をぽんぽん作れるとなると、サントラ制作は楽しくてしょうがないでしょう。とても聴きごたえのある楽しいアルバムです。

Scarlet OST / Touno Yumi (2019 Vap)