福島県に生まれた遠藤ミチロウは言います。「2011・3・11、それは戦争が始まった日です」。「地震、津波による災害はまるで『東京大空襲』のような、そして福島原発事故は広島、長崎に落とされた『原爆』です」。

 地震や津波はともかく、原発事故は明らかな人災であり、「収束のつかない『FUKUSHIMA』は、人間の未来に対する戦宣布告になってしまいました」。事故は風評被害を生み、「私達の心の中に原発を飼っていた」ことに気づかされます。

 遠藤ミチロウは大友良英、和合亮一らとともにプロジェクト「FUKUSHIMA」を立ち上げました。そして、2011年、「あえて、終戦記念日である8・15に『世界同時多発フェスティバル』を行い」ました。私たちが築き上げてきた平和と繁栄を考え直すために。

 「『FUKUSHIMA』の現実と真っ正面から向き合い、その現場から新たな文化を発信することが出来たら、私達の未来は『FUKUSHIMA』という希望の一里塚を打ち立てることになるのです」。FUKUSHIMAへのメッセージからの言葉が身に沁みます。

 このアルバムはあれから4年後の2015年に発表された遠藤ミチロウの10年ぶりのオリジナル・アルバムです。その名も「FUKUSHIMA」、プロジェクトFUKUSHIMAでの活動と地続きであるアルバムであることは一目瞭然です。

 アルバムはまずミチロウ・ゲット・ザ・ヘルプの名曲の福島バージョン「オデッセイ・2014・SEX・福島」で始まります。もともと饒舌な語り調の唄ですが、ここではアコースティック・ギターだけをバックに福島弁でミチロウ・ワールドが語られていきます。

 年輪を感じる声と方言による生々しさが相乗効果を生んでいて、全然違う魅力を歌に与えています。オリジナルをはるかにこえる卑猥な響きがいいです。リメイクは他に、ザ・スターリンのメジャー・デビュー作「STOP JAP」の音頭仕様があります。これも東北らしい。

 そして「三陸の幻想」。元はザ・スターリン最初期の「ワルシャワの幻想」です。「幻想」となるとミチロウさんが敬愛する吉本隆明です。♪貧しさ♪ではなく♪美味しさ♪に乾杯する仕様変更が施されています。三陸共同幻想でしょう。

 カバーは秋田出身の同世代、友川カズキの「無残の美」から「ワルツ」。続くオリジナルの「大阪の荒野」、「オレの周りは」と並んで違和感のない弾き語り三部作となっています。そして「新・新相馬盆唄」、後にバンド化する「志田名音頭ドドスコ」の和ものがもう一つの柱。

 さらには「原発ブルース」、「NAMIE(浪江)」、「放射能の海」と直截に原発をうたった曲が並びます。戦慄せずに聴くことはできません。そんなアルバムの最後に「冬のシャボン玉」、HKドラマ向けを狙ったという名曲です。何とも充実したアルバムです。

 演奏には元頭脳警察の石塚俊明他旧知のメンバーが一部参加して、極上の色をつけていますけれども、全体にミチロウさんの言葉が際立つ弾き語り仕様です。時に重く、時に軽やかに放たれるミチロウ・サウンドは確かに「希望の一里塚」になっているものと思います。

参照:プロジェクトFUKUSHIMA 遠藤ミチロウ メッセージ 

FUKUSHIMA / Endo Michiro (2015 北極バクテリア)