フランク・ザッパ先生のプチ・ワズー・ツアーからの音源第二弾です。没後に発表された「イマジナリー・ディズィーズ」が初出でしたが、その出来があまりに素晴らしかったため、ファンの間では待望されていたアルバムだと言えます。

 プチ・ワズー・ツアーは1972年10月27日から12月15日の間に行われました。2か月に満たない北米ツアーでした。マザーズ・オブ・インヴェンションの名前で行われましたが、後にプチ・ワズーの愛称で呼ばれることになったツアーです。

 参加メンバーのうち、ドラム、ベース、ギターと先生を除く6人が管楽器という編成です。この前に行われたグランド・ワズー・ツアーが20人編成でしたから、その半分だということでプチ・ワズーです。いろいろな苦労話が残されているダウンサイジングでした。

 今回選ばれた楽曲では、まず「コズミック・デブリス」が目を引きます。後に商業的成功作「アポストロフィ」で広く知られることとなり、ライブの定番となる曲の原型がここにあります。管楽器中心に演奏されているので、かなり異なる印象を与えて秀逸です。

 この曲に象徴されるように、プチ・ワズーでは普通のロック・コンボの演奏と管楽器群による演奏が共存しています。アルバム・タイトルともなった「リトル・ドッツ」では、先生のギター・ソロもたっぷりフィーチャーされており、そこに被さる管楽器群が何とも言えません。

 このアルバムで最も興味深いのは最後の楽曲「コロンビアSC」です。サウス・キャロライナ州コロンビアでのステージで収録された約25分間に及ぶ長尺の曲で、地名を冠しただけなのは、この曲がリハーサルなしの完全即興だからです。

 この日、ティム・バックリーの演奏の後にステージに立つ予定だったマザーズですが、その直前にドラムのジム・ゴードンとホーンのゲリー・バロンが逮捕されてしまいます。バックステージのトイレにこもって麻薬をやっていたためです。

 先生はこの事態にもめげず、演奏を終えたばかりのティム・バックリー・バンドのドラマー、モーリー・ベイカーに頼み込み、彼を交えた残りのバンド・メンバーでステージに立ちます。当然、当初予定のセットはできません。完全即興での演奏となりました。

 バンド・メンバーにとってももちろんのこと、ベイカーには驚きの体験です。「バンド・メンバーの即興手腕を垣間見る稀な機会だったにとどまらず、この24分強に起こったことは、フランクがリアル・タイムに作曲して指揮した、真のザッパ作品だったんだ」。

 各メンバーは「フランクのユニークな指揮と創造的影響力、そしてもちろん素晴らしいギター・ソロにそって即興演奏を行った」んです。さすがにステージは短く、アンコールには応えられませんでしたが、十分に凄いことでした。

 その他、「ロロ」も重要な曲ですし、スティール・ドラムも活躍する不思議な編成のこのバンドが短命に終わったのはとても残念です。先生のバンドはこの後、通常のロック編成に戻り、名作を次々に世に問うことになるのですが。

Little Dots / Frank Zappa (2016 Zappa)