このアルバムにはジャケットが二通りあります。手元にあるのはオープン・リールのテープに五線譜が書かれている英米向けで、ヨーロッパ大陸向けには木の板に彫刻されたメンバー三人の肖像をジャケットにあしらいました。日本では英米向けが採用されています。

 私はどちらかと言えば、ヨーロッパ向けが好きです。この作品が、英米よりもヨーロッパ大陸での人気の方が高かった理由の一つにそのジャケットもあったかもしれません。両者に対するマーケティング・アプローチが異なっていたということです。

 三人と書きました。前作の発表以降、ついにリード・ボーカルのブライアン・コノリーが脱退してしまい、スウィートはギターのアンディ・スコット、ドラムのミック・タッカー、ベースのスティーヴ・プリーストの三人組になってしまいました。

 ブライアンはバンド・メンバーとの確執があったにも関わらず、本作のレコーディングには参加していて数曲を録音しています。しかし、噂によればブライアンのキーを無視した曲が用意されていたとのことです。それで結局彼のボーカルはお蔵入りになりました。

 そんな状況のただ中、ついにブライアンの脱退が発表されました。理由はアルコールではなくて、音楽の方向性の違いだということになっています。よくあることとは言え、バンドのごたごたは見ていて気持ちの良いものではありませんね。

 結局、ボーカルは三人が分担することになりました。一応、ボーカルの比重が大きいのはスティーヴですけれども、ミックも2曲、アンディも2曲とスティーヴとのツインが1曲という分担になっています。なお、シングル曲はスティーヴが唄っています。

 ボーカルが3人もいるというのは長所でもあり短所でもあります。スウィートのサウンドではボーカルの比重が比較的大きいので、声がころころ変わるとやや落ち着かない気がします。一方でバラエティー豊かな曲調をより強調することもできます。

 本作品は前作をさらに推し進めたサウンドになっており、緻密な構成によるポップなロック路線が追求されています。この頃の彼らのサウンドはやはり10ccや一時期のクイーンなどと比べられることが多かったと記憶しています。

 とはいえ、英国ではチャートインすらせず、米国でも151位どまりとセールス的には惨敗です。唯一、ドイツではシングル・カットされた「コール・ミー」が29位ですがチャートインしましたし、アルバムも49位とはいえチャートインしています。大陸受けするサウンドなんです。

 前作のようなストリングスやバロック楽器は使われていませんが、キーボードでは助っ人が何人も起用されており、サウンドに彩りを添えています。またボーカリストが三人いるという特性を生かして、分厚めのコーラスがかっこいいです。

 佳曲も多く、スティーヴとアンディのツイン・ボーカルが冴える「マザー・アース」や、ディスコ恐怖症を歌った「ディスコフォニー」などが際立っています。どうして売れないのかが不思議です。いいバンドだと思うんですが、どうしても優等生になってしまうところが原因でしょうか。

Cut Above The Rest / Sweet (1979 Polydor)