1978年の英国音楽シーンと言えば、パンク及びニュー・ウェイブ一色でした。と、私などは言い切ってしまうのですが、もちろん全部が全部そうなわけではなくて、プログレもハード・ロックもポップも普通にありました。どうしても過去は単純化してしまいがちです。

 そんな反省を迫るようにスウィートの1979年作品「甘い罠」が存在します。スウィートは1970年代前半のバブルガム/グラム期を過ぎて、ロック的に自立した作品を発表するようになるとレーベルをRCAからポリドールに移籍しました。

 その時の契約金が75万ポンドと言いますから、結構な金額です。それだけポリドールは彼らが売れると踏んだということです。その移籍第一弾が本作品「甘い罠」です。このアルバムから「愛は命」の大ヒットが生まれましたから、まずはポリドールの投資は報われました。

 邦題の「愛は命」とはうまくつけたものです。原題は「ラブ・イズ・ライク・オキシジェン」、愛は生命に不可欠な酸素のようだと訴えかけているわけですから、原題の意をくんでいます。ただ、結果的に陳腐な邦題で、今となっては原題の方が通りがよいです。

 ともかく「愛は命」は英米でトップ10ヒットになりました。アルバム・バージョンでは7分を超える大作を、シングルではコンパクトに編集しており、それぞれ聴きどころが微妙に異なるという、シングル市場とアルバム市場を見事に意識した作りになっています。

 この曲だけでもスウィートの力の入れようが分かります。アルバムでは不動の4人に加え、ストリングやブラス、そしてプログレ・バンド、グリフォンの元メンバーで数々の映画やテレビのサントラで知られるリチャード・ハーヴェイによるバロック管楽器が添えられています。

 基本的にはポップなロックですけれども、プログレと言ってもおかしくない緻密なサウンド作りがされています。英国のロック・シーンにはひねくれポップ路線が脈々と続いていますけれども、彼らのサウンドはそことも少し違うように思います。

 彼らは初期のバブルガム路線のせいで英国の評論家筋からはどうしても真面目に向き合ってもらえないというハンデを抱えていました。それもあってより魅力的な市場である米国をターゲットに据えることにしました。ひねくれすぎると米国では受けないと考えたのでしょう。

 プログレ的な緻密な音作りながら、行き過ぎることなく、ポップ色の強いロックにまとめあげる。その成功作が本作品だと思います。この路線は英国ではあまり受けませんでしたが、米国ではそこそこ成功します。そして面白いことにヨーロッパ大陸には特に刺さっています。

 さて、不動の四人組と書きましたが、リード・ボーカルのブライアン・コノリーがお酒のせいでアメリカ・ツアーで不安定なパフォーマンスとなってしまいます。チープトリックやジャーニーなどと回ったツアーですから頑張りどころだったのに残念です。

 その兆候はアルバム制作時からあったのでしょう、本作ではブライアン以外のメンバーがリード・ボーカルをとる曲も多く、結果的にブライアンは本作を最後に脱退することになりました。そんな不穏なものを感じさせるも、四人組スウィート最後の力作でした。

Level Headed / Sweet (1978 Polydor)