戸川純の芸能活動40周年はちょうど平成から令和への変わり目でした。10周年は昭和から平成への移行、20周年は世紀の変わり目と、自身の節目と時代の節目が一致するとは、なかなか素敵です。もちろん該当する人は多いでしょうが、40年続いた人はそういない。

 40周年記念として発表されたのが本作品「ヤプーズの不審な行動令和元年」です。年号が入っているのは、同名のアルバムが1995年に発表されているからです。不審な行動とはライブのことで、どちらの作品もライブ盤となっています。

 ヤプーズは1983年に結成されたバンドで、当初は戸川純とヤプーズを名乗っていましたけれども、1987年からヤプーズと名前を変えて活動していました。ヤプーとはもちろん沼正三の問題作「家畜人ヤプー」に由来します。大変な小説でしたね。

 ヤプーズは何度か活動休止をしており、本作品はヤプーズ名義としては20年ぶりの新作です。ギターのBERAこと石塚伯広の呼びかけがきっかけで再始動したとのことですが、その石塚は2019年2月に事故で急逝してしまいました。

 石塚の意志を無にするまいと、後任にdipのヤマジカズヒデを招いて活動を続けたヤプーズは石塚の意志通りアルバムを制作しました。それが本作品です。令和元年8月17日に渋谷のクラブ・クアトロで行われたライブとスタジオ新録を組み合わせたアルバムです。

 選曲は「『元号』の入った曲を入れたかったのと、『赤い戦車』のリアレンジを音源化する場はここがいいなと思って」ということで、ライブで披露した平成のヤプーズの曲から5曲が選ばれました。歌詞に現れる元号は昭和や平成が適宜変更されています。

 もう一曲同じライブから「好き好き大好き」がボーナス・トラックとして収録されました。ソロ名義曲なのでボートラらしいですが、この曲にはツイン・ギターにしたいと生前の石塚が予め仕込んでいたギターが使われています。これがかっこいい。

 スタジオ録音は2曲、新曲の「孤独の男」とかつて声優の宮村優子に提供した「12才の旗」のセルフ・カバーです。後者はおめでたいをテーマにした宮村の「大四喜」というアルバムに「初潮おめでたい」ってことで提供したのだそうです。確かにおめでたい。

 ヤプーズの演奏はストレートに1980年代ニュー・ウェイヴ界隈のサウンドの現在形のように聴こえます。激しい曲もゆったりした曲も私の耳にはすっきり馴染んで気持ち良いことこの上ありません。戸川純のボーカルとの相性はもうぴったりすぎるくらいぴったりです。

 戸川は腰をケガした後遺症でまだ立ちっぱなしでのライブはできないそうですし、声も元に戻っていないようですが、今の状態でしかできないボーカルがまたいいです。曲ごとに可愛かったり、どすがきいていたり、エモだったり。ところん前向きな戸川純です。

 ディスク・ユニオンで買ったので特典ディスクがついており、同じ日のライブから「ロリータ108号」とアンコールで披露された「パンク蛹化の女」が聴けます。これを聴くとますますライブを見てみたくなります。50周年に向けて頑張ってもらいたいです。

参照:「戸川純インタビュー20191201」椎名宗之(Rooftop) 

Suspicious Behavior Of Yapoos / Yapoos (2019 Revell)