フレディ・マーキュリーが亡くなったのは1991年11月24日のことでした。ここからしばらくの間、イギリス中が大きな騒ぎになりました。その騒ぎに形をつけるべく、翌年4月にロンドンのウェンブリー・スタジアムで大規模な追悼コンサートが行われるに至りました。

 振り返れば、フレディを筆頭にクイーンはけして音楽ジャーナリズムに好かれたバンドではありませんでした。後期はもちろんのこと初期の頃であってもかなり酷評されていました。どことなく際物扱いされていたといってもよいと思います。

 ところがフレディの死後、いかにクイーンが大切なバンドであったかを音楽ジャーナリズムは思い知ることになります。音楽は好きだけれども音楽雑誌なんか読まない大多数の普通の方のクイーン愛が一気に噴出したんです。マイケル・ジャクソンと同じですね。

 フレディ愛に満ちたファンの筆頭といえばブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンの三人でした。同僚というよりファンに近い。彼らがまず行ったのが、追悼コンサートの企画であり、フレディの遺志を継いで本作の制作であり、クイーン復活でした。

 本作品はフレディが生前に残していた音源を最大限に生かして制作されたクイーン最後のスタジオ作品です。三人のフレディに対する愛がほとばしる名作で、英国を始め、ヨーロッパ各国で軒並み一位を記録しました。

 フレディは前作「イニュエンドウ」の発売前にはすでにメンバーをスイスのマウンテン・スタジオに召集してレコーディングに取り掛かっています。本作はそこで録音された曲を中心に残された三人が作り上げたアルバムです。

 実際にその時に録音されたと思われるのは実は3曲だけです。フレディの歌声にかつてない切実な迫力を感じる「マザー・ラヴ」、ブラコン風の「ユー・ドント・フール・ミー」、そしてフレディが最後に作曲したといわれる至高のメロディーを持つ「ウインターズ・テイル」です。

 それ以外の曲は、フレディのソロ・アルバム収録曲の演奏を差し替えた曲、フレディが歌うロジャー、ブライアンのソロ・アルバム収録曲、残されていたフレディのボーカルを使って新たに作った曲からなっています。

 最も古いのは「レット・ミー・リヴ」で「ザ・ワークス」制作時にロッド・スチュワートとジェフ・ベックが加わって録音していたのだそうです。1983年にさかのぼります。なお、残念なことに二人の貢献は消されています。発掘されることを祈りたいです。

 このように集められた曲はばらばらのはずなのに、アルバムの統一感は素晴らしいです。すべてのベクトルがフレディのボーカルを最大限に生かす方向を向いています。三人の愛に支えられて、初期の頃より迫力を増したフレディのボーカルが舞い踊っています。

 シークレット・トラックはちょっとやり過ぎだと思いますが、「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」を始め、ヒット・シングルも多数生まれ、クイーン伝説を新たにした素晴らしいアルバムです。銅像の似合う男フレディ・マーキュリーはやはり凄いスーパースターでした。

Made In Heaven / Queen (1995 Parlophone)