日本のパンク/ニュー・ウェイブ時代の音源を大切に復刻し続けている「いぬん堂」こと牛戸圭一による「ジャパニーズ・80sニューウェイヴ・サンプラー」の副題がつけられたコンピレーション・アルバム「テクノロイド」です。徳間のジャパン・レコードからの発売です。

 アルバムに集められたのは1980年代に異彩を放ったアーティストによる22曲です。テクノと題されていますが、必ずしもピコピコ・テクノばかりではなく、いわゆるニュー・ウェイヴな曲も含まれています。パンク・アヴァンギャルド系を集めた「インポッシブル!」との姉妹作です。

 本作品は大まかに三つに分かれます。まずは日本テレビで放送された「金曜娯楽館」のニュー・ウェイヴ特集を意識した選曲。プラスティックス、Pモデル、ヒカシューのいわゆるテクノ御三家を中心に比較的メジャーなバンドばかりです。

 この番組は私も見ましたが、各バンドを一堂に集めて朝礼のように並んで座らせるなど、出演者への敬意に欠け、あまり良い印象は残りませんでした。特にリザードなどはいかにも居心地悪そうで気の毒でした。それでもテレビに姿を見せたという点では感慨深いですが。

 番組には出ていませんでしたが、知名度が高いジューシィ・フルーツと一風堂を筆頭に80年代ニュー・ウェイヴ界隈で人気を博したバンドばかりですから、さすがにクォリティーは高い。しかもプラスティックスはアルバム未収録曲で、ヒカシューはライヴと心憎い選曲です。

 続くパートはメジャーながら積極的に先鋭的な作品をリリースしていた徳間ジャパンからの作品です。ビジネスやミオ・フー、野宮真貴のポータブル・ロックや近田春夫の異色のユニット、ゲート・ボール、Pモデルや81/2のメンバーによるバンド、原マスミなどが含まれます。

 ここで驚くのはワンダー・シティ・オーケストラによるYMOを意識した生ドラムにシンセサイザーを合わせたテクノ・フュージョン作品「ハイウェイ・クラッカー」です。オーケストラ名義ですがやっているのはあのジブリで有名な久石譲です。

 三つめは「いぬん的重要音源コーナー」とされています。力を込めて紹介しているのが広島の高校生ガールズ・バンド、グルーピーです。大阪のピクニック・レコードからEPを1枚残したのみですが、いぬん堂の執念が実ってここに収録されました。

 「このバンドの消息が知りたい」、「岡崎京子の世界を音楽にしたような、少女特有の視線が歌詞にサウンドに現れていて大変興味深いのだ」、「求む情報!」と牛戸が書いていたのは2002年のことでした。確かに素敵なバンドです。このアルバム一の収穫かも。

 このパートには関西パンクの高校生バンド、ディー・オーバンやカリスマ的なEP-4、明示的ではないものの、ケラリーノ・サンドロヴィッチ率いる有頂天が該当します。ここらあたりは当時の百花繚乱状態を演出していて見事です。

 ジャケットは江口寿史のイラストです。彼の「すすめ!パイレーツ」は最もテクノ的な漫画でした。このコンピは一から十まで掛け値なしに当時の空気を再現しています。当時はそう思っていませんでしたが、今になって振り返るとなんだかやたらと前向きな時代でしたね。

参照:「パンク天国4」(ドール)

Technoloid / Various Artists (2006 Japan)