英本国では1991年2月発売ですが、日本では1月に先行発売されています。この当時、日本でのクイーン人気が盛り上がっていた認識はありませんが、キャリアの初期にクイーンを支えた日本を、いかに彼らが大事にしているかが分かって嬉しいです。

 「イニュエンドウ」は結果的にフレディ・マーキュリーの生前最後の作品になったことから、そのこと抜きに語ることは難しいアルバムです。ただでさえクイーン後期の最高傑作と衆目が一致する作品なのに、物語をまとって光り輝いています。

 力作だった前作から20か月、1980年代のクイーンのペースからすれば十分に短い間隔での発表です。さらに、その制作開始は1989年3月で、前作の録音を終えてわずか2か月後のことだと聞くと、いかに彼らがc残された時間を有効に使おうとしていたかわかります。

 四人の結束力は今回も強く、たとえば前作同様、作詞作曲はすべてクイーンの名義となっています。厳密には、一曲だけクイーンとフレディのソロ・アルバムを共同プロデュースしていたマイク・モーランの共同名義の曲があります。グループに捧げられた曲「神々の民」です。

 本作からはまず先行シングルとしてタイトル曲「イニュエンドウ」が発表され、見事に全英1位に輝きました。意外にもクイーンの単独名義としては「ボヘミアン・ラプソディ」以来です。ブライアン・メイが「ジグゾーパズルのよう」だと言うクイーンらしい複雑な構成の曲です。

 この曲はアルバムの冒頭に収録されていて、アルバムへの期待値を一気に押し上げています。そして、モノクロのMVが印象的な「狂気への序曲」、ヘビメタ全開の「ヘッドロング」とシングル曲が並べられ、バラエティ豊かな曲でクイーンの力を見せつけます。

 本来のシングル曲はここまでですが、1991年10月に発表された「グレイテスト・ヒッツII」のプロモーションのためにアルバムのラスト曲「ショウ・マスト・ゴー・オン」がシングル・カットされました。アルバム屈指の名曲はフレディの心からの叫びでもありました。

 この1か月後にフレディは帰らぬ人となりました。当時私はイギリスにいたのですが、この曲と「狂気への序曲」のMVが流され続けたことを覚えています。さらに12月には追悼シングルとして「ボヘミアン・ラプソディ」に「輝ける日々」がカップリングされて発表されました。

 もうこの3曲のMVはこの時のことを思い出さずには聴けません。そのため、アルバム全体に対する印象が薄れてしまっていたのですが、改めて聴いてみると、なるほどこれは傑作です。曲の並べ方にも一分の隙もなく、トータルなアルバムとして完成しています。

 加えて、ヘビー・メタル・バンドとしてのクイーンの力量を再確認させてくれる「ザ・ヒットマン」や「アイ・キャント・リヴ・ウィズ・ユー」などもあり、世界中のスタジアムをうならせてきた世界一のライブ・バンドとしての面目躍如たるものがあります。

 あまりフレディの人生に引き付けてアルバムを鑑賞するのはよくないとは思うものの、アルバム全体に鬼気迫るものが漂っているので、どうしても考えずにはいられません。当然全英1位となりましたが、真価が広く認識されるのはフレディの逝去後だったように思いますし。

Innuendo / Queen (1991 Parlophone)