四人の顔が一つになったジャケット、作詞作曲がメンバー名ではなく全曲クイーン名義になったこと、これだけでもクイーンがバンドとしての一体感を強調していることが痛いほど分かります。一体どうしたのかと思いましたが、その事情は後に明らかになりました。

 クイーンの新作「ザ・ミラクル」は前作「カインド・オブ・マジック」から3年近く経過して発表されました。前作のツアーが終了して以降、約1年半のブランクを経て、四人は本作品の制作にとりかかりました。制作期間は1年以上に及ぶ念の入れようでした。

 このブランク期間のどこかでフレディ・マーキュリーはHIV陽性の診断を受けていたはずです。フレディは本作品の制作中にメンバーに自身の病状を告白したのだそうです。そんな事情があれば結束が固まらないはずはありません。後から考えれば納得してしまいます。

 クイーンは本作発表直後に今後はツアーをやらないという宣言をしています。これも後から振り返ると当然ではありました。その代わりと言っては何ですが、クイーンはスタジオでの作業に従来以上に時間をかけることになりました。

 本作品からはレーベルがパーロフォンとなり、さらにプロデューサーがマックからデヴィッド・リチャーズに代わりました。3年もあるといろいろなことが起こるものです。デヴィッドはエンジニアで前作にも半分くらい関わっていましたから、さほど大きな変化はありませんが。

 本作からは5曲もシングル・カットされ、英国ではそれぞれヒットしました。特に先行したシングルの「アイ・ウォント・イット・オール」は3位、2曲目の「ブレイクスルー」は7位とトップ10ヒットを記録しました。他の曲も上位に食い込んでおり、クイーンの人気を印象付けました。

 演奏も4人だけで行っていると書かれており、それぞれに楽器のクレジットはありません。曲によっては演奏に参加していないメンバーもいるようですが、それでも4人だけでクイーンとして作り上げた意気込みが伝わってきます。とにかく力強さが印象的です。

 各楽曲は相変わらずのクイーン品質です。ポップな曲、ハード・ロック全開の曲、ブラコン・テイストの曲、ドラマ仕立ての曲などバラエティに富んだ曲調が詰め込まれています。スタジオ・ワークに専念することで原点に回帰したとも言える作品となっています。

 とはいえ、1980年代も終わりに近づいており、1970年代に比べると楽器や録音機材の進歩は目覚ましいものがあります。最先端の技術も取り入れて、念入りに練り上げられたサウンドは初期の頃とは比べ物にならないくらいきっちりしています。

 クイーンの魅力は異形の魅力でもありました。過剰であったり、スカスカであったり、よじれていたり、どこか普通でないサウンドが魅力でしたが、ここまできっちりすると音楽は素晴らしいのですが、少し物足りなさを感じてしまうのも事実です。

 とはいえ、本作は6作目の全英1位を獲得し、米国でも少し盛り返しました。やはりクイーンの楽曲の魅力は正面から愛でても素晴らしいということなのでしょう。加えて、フレディのボーカルは以前よりも力強さが増しました。やはりフレディの力は大きいです。

The Miracle / Queen (1989 Parlophone)