社長アイドル、眉村ちあきのメジャー2作目、「劇団オギャリズム」です。ジャケットを開くとあいみょんのような顔で写っていますが、表紙はいかにも小劇場の劇団のポートレートのようです。裏は裏で不気味な笑顔、これまた小劇場のホラー劇団のようです。

 眉村は弾き語りトラックメーカー・アイドルを自称するだけあって、本作品もトラック・メイクにいたるまですべて自分一人で行っています。2曲だけギターに広島生まれのギタリスト西田修大が起用されていて、聴けばすぐにそれと分かります。さすがはプロのギタリスト。

 本作品はまず「タイムスリッパー」で始まります。本人曰く、「ブルーノ・マーズっぽいから若者好きそうと思って」の起用です。前作が芸人仕様の「ほめられてる!」でしたから、それに比べれば今回は正統派な楽曲で始めています。

 しかし、最後の曲が「ぬ」。歌詞カードには♪もももも♪、♪れれれれ♪などが並ぶ強力な曲が置かれています。さすがは眉村社長、まったく日和ったりはしていません。ますます歌詞にもトラックにも独自路線に磨きがかかっています。

 前作からの変化について、「超変わったのは、いままではレコーディングの時に5分で1曲録っていたんですけど、いまは1時間半くらいかかります」と眉村は語ります。ワンテークではなく、「気になったところはちゃんと歌い直すようにした」んだそうです。

 だから「歌が上手くなってると思う」と自信を持っています。確かに前作に比べると、プロらしくなりました。もともと上手い人ですから、こうやってしっかり歌録りしても、パンクな部分は損なわれておらず、素直に変化を喜べます。

 また、今回はレコード会社の会議室に居座って集中して作ったそうです。しかも、「ライヴ会場に来てるファンの顔」だけではなく、「YouTubeを見てる人の顔も想像しながら」作っています。インディーズからメジャーへと華麗に変身を遂げつつあります。

 各楽曲のメロディー・ラインは眉村らしい癖が全開で、いかにもシンガーソングライターらしくていいです。ちょっとボブ・ディランなんかを思い出しました。トラックはシンプルでいながらきちんとおかずも満載で、ボーカルの曲に合わせた処理と並んでとてもいい感じです。

 話題になる歌詞では、社長らしいポジティブな言葉が満載です。♪みんなに健康でいてほしいから♪とか、そのものずばり「私についてこいよ」という歌まであります。彼女はサブステージの王様と呼ばれる中年スカムユニット、クリトリック・リスに影響を受けたそうです。

 「私も情景が浮かべられるような歌詞を作りたいと思いました」。その言葉通り、「ぬ」以外はそれぞれにちゃんと独自の情景が浮かんできます。面白いのは「チャーリー」。ボートラでオリジナル歌詞バージョンが入っていますが、本編はこれを全面的に書き直しています。

 この書き直しがいいです。二つを比べると、彼女の詩作に対する真摯な態度が伝わってきます。即興で作ったような歌詞も含めて、トラックのサウンドと一体となって、耳に適度に障るたたずまいが素晴らしいです。本作品も快調です。このまま突っ走ってほしいものです。

参照:「bounce 434」南波一海(タワーレコード)

Gekidan Ogyarism / Mayumura Chiaki (2020 Toy's Factory)