クイーンは前作発表後にも大掛かりなステージを展開しましたが、メンバー間の確執は高まり、実際に解散も考えていたそうです。その運命が変わったのが伝説のライブ・エイドでのパフォーマンスでした。映画「ボヘミアン・ラプソディ」はそこをかなり誇張して描いています。

 私は文字通りリアルタイムでライブ・エイドを見ました。衛星中継はぶつぶつ途切れるは、CMはたくさん入るは、日本のスタジオでラッツ・アンド・スターが歌うはで、とても落ち着いて見られませんでしたが、綺羅星のごとくスターが現れ、それはそれで感動しました。

 そんな状況なのでクイーンの印象はさほど強くなくて、英国での大評判を不思議に思っていました。納得がいったのはDVDを見た時です。そこまで大観衆が戸惑い続ける中、クイーンが登場して初めて会場が一つになったことがはっきり分かります。確かに凄い。

 この作品はクイーンがスーパースターであることを自他ともに再確認した後、初めて発表された12作目のスタジオ・アルバムです。英国では「ザ・ゲーム」以来6年ぶりに1位となる大成功をおさめました。米国ではさっぱりでしたが、クイーンにはアメリカは不要でしょう。

 「カインド・オブ・マジック」と題された本作品は「映画『ハイランダー』のサントラとして制作した楽曲に書き下ろしを追加」し、「クイーンのオリジナル・アルバムとして完成」したものです。そのため、コンセプト・アルバム的な色彩を少し帯びているのが特徴です。

 同じサントラでも「フラッシュ・ゴードン」とは異なり、全曲でフレディ・マーキュリーがしっかり歌っていますし、映画に使われなかった曲も入っていますし、サントラと言われなければ誰も気がつかない。ただし、何かの物語ではあろうとは察しがつきます。

 映画は「ハイランダー悪魔の戦士」と邦題がついている伝奇的なSFです。「フラッシュ・ゴードン」ほど由緒正しいわけではないものの、2000年以上生きる不死身の戦士たちのバトルという分かりやすい作品ですから、とてもクイーンらしいと思います。

 冒頭の「ワン・ヴィジョン」は初めて作詞作曲がクイーン名義となった作品です。アルバム制作のための最初のセッションで出来上がった曲なのに映画には使用されていませんが、アルバム・ツアーではオープニングを飾る、ストレートなメッセージの力強い曲です。

 最大のヒット曲はアルバム・タイトルにもなった「カインド・オブ・マジック」でロジャー・テイラーの曲です。クイーンの後期の曲の中でも人気の高いポップな曲です。落ち着いたフレディーのボーカルも素晴らしく、4人の息が再びぴったりあったところを聴かせます。

 目立ちませんが私は「喜びへの道」が好きです。ジョン・ディーコンが一人ですべての楽器を担当し、フレディがファルセットで歌うソウルフルな曲です。ただし、この路線はこの曲くらいで、本作品は基本的にはかつてのクイーン路線を発展させたサウンドとなっています。

 フル・オーケストラとの共演という新機軸を交えつつも、落ち着いた曲やブライアン・メイのハード・ロック全開の曲、フレディによる複雑な構成の曲などが組み合わさるところも貫禄のクイーンらしい。発表後のツアーも盛況で再び黄金時代を迎えるかと思ったのですが。

A Kind Of Magic / Queen (1986 EMI)