クイーンは失敗作だと認識する「ホット・スペース」発表後のツアーを終えると、バンド活動を一時休止します。映画「ボヘミアン・ラプソディ」に描かれた最悪の時期にあたります。各メンバーはそれぞれがソロ活動に力を注ぐことになります。

 しかし、その間もそれぞれがクイーンのための曲を書いており、やがて機が熟したと判断した彼らは本作品の制作に取り掛かります。そういう事情ですから、本作品には4人がばらばらに書いた楽曲が寄せ集められることになりました。

 「4人全員が曲を書いた結果として、ヴァラエティー豊かなものになった。ただそれだけのこと。コンセプトもなにもない。だからこんなタイトルにしたんだよ」とフレディ・マーキュリーは本作の身もふたもないタイトル「ザ・ワークス」を説明しています。

 まるで力が入っていないような話ですが、なかなかどうして力のこもった傑作です。まずは一丁目一番地に「ラジオ・ガガ」が収録されています。それまで大ヒット曲を書いていなかったロジャー・テイラーによる、誰もがつい手拍子してしまう名曲です。

 「ラジオ・ガガ」はあのライヴ・エイドで会場を自然に一つにしました。この分かりやすさがクイーンを唯一無二のバンドにしています。レディー・ガガが出てきたときにはおやっと思いましたが、本当にこの曲に由来する芸名だと知った時にはさらに驚いたものです。

 本作品ではMTV興隆時代を反映して、数々のMVが制作されました。「ラジオ・ガガ」も大仕掛けでしたが、大きなインパクトを残したのは「ブレイク・フリー」でした。メンバー全員が女装したビデオでは、ロジャーのかわいらしさとフレディのいかがわしさが光り輝いていました。

 ブライアン・メイは直球勝負の「ハマー・トゥ・フォール」を提供しています。この曲はライヴ・エイドでも披露されたハード・ロック・ナンバーで、クイーンによるロックの魅力を凝縮したような作りになっています。コンサートの定番になるのもよくわかります。

 フレディらしさは「永遠の誓い」でしょうか。「ボヘミアン・ラプソディ」的な楽曲で、オペラ時代のクイーンを彷彿させます。この曲が象徴するように、本作品では前作のブラック・ミュージック趣味が後退し、「ザ・ゲーム」以前のクイーンに戻ったように思います。

 このため英国では2位どまりだったものの2年近くチャート・インする大ヒットとなりました。しかし、米国では一旦息切れした人気が戻ることはありませんでした。日本ではそこそこヒットはしたものの、なんとなく過去のバンドっぽくなってしまいました。

 英国に先駆けてクイーン人気が爆発した日本ですから、「クイーンII」が原点なんです。そこからすれば「フラッシュのテーマ」や本作の「ラジオ・ガガ」はなかなか受け入れがたい。本作をすんなり受け入れられるようになるにはずいぶん時間を要しました。

 ところで本作の最後は「悲しい世界」で締めくくられました。飢餓に苦しむアフリカを歌った歌で、本作発表後に行われたライヴ・エイドでの奇跡の予兆です。そんなところも含めて、クイーンは否が応でもドラマチックでした。やはり稀代のスーパースターです。

The Works / Queen (1984 EMI)