アーティスト名はCVLTVRΣです。カルチャーのUをVと綴るのは、全く目新しい表記というわけでもなくて、ちょっとウェブを検索しただけでも数々のページがヒットします。ご丁寧に同名のメタル・バンドまでヒットします。EをΣとしているのはこの人独自かもしれませんが。

 これは何とCD-Rで、本家のCDは50枚限定のようです。ディスク・ユニオンで購入した正規盤ではありますが、CD-Rらしく私の普段使いのオーディオでは途中までしか再生できませんでした。だんだんCDに対する扱いがぞんざいになる音楽界です。

 ディスク・ユニオンのサイトによれば、CVLTVRΣは「telepathテレパシー能力者and猫シCorp.が率いた複合プロジェクトとして名高い『断片化された友人』への参加などなどなど」に代表される「シーンの重要アーティスト」だということです。

 一読しても何が何やら分からない言葉遣いですが、そうなんです、このシーンとはヴェイパーウェイブのことなんです。いかにも蒸気波らしい言葉の数々で、その中におくとCVLTVRΣなどは比較的分かりやすいユニット名です。

 本作品はヴェイパーウェイブのカタログを数多く取り揃えるロンドンのドリーム・カタログから発表されたCVLTVRΣの4年ぶりの自身の名前によるアルバムです。ドリーム・カタログはこの作品の音楽をインターヴェイパーと呼んで気合を入れてプロモーションしています。

 それによれば、CVLTVRΣはパリを拠点に活動するアーティストで、2010年代の「酔っぱらったヴェイパーウェイブの遺物の霧の中から」、インターヴェイパーに再び覚醒したのだということです。両者の区別が判然としませんが、一言で言えば「新しい」ということでしょう。

 覚醒した彼はFMを変形して合成したサウンドに蒸気をまき散らして完全にオリジナルな作品を創り上げたと評されています。サンプリングではないというのが驚きです。広い意味ではサンプリングなのでしょうが、より直截に使用しているということなのでしょうか。

 昔の言い方をするとイージー・リスニング的なサウンドをそのまんま使用しているようなのですが、曲の途中で回転数を変えていくので、気持ちが悪いというか不穏な空気が漂ってきます。まるでオリジナルとは異なる世界が現れてくるのが作品の肝でしょう。

 現実と薄い皮膜を隔てたところにある夢とがごちゃごちゃになる悪夢をみせられているような気になります。♪佐々木さんはいらっしゃいますか♪とヴェイパーウェイブらしく、日本語の語学テープのような音声が入るところも気持ちが悪いです。

 その気持ちの悪さを鑑賞するのが一連のヴェイパーウェイブないしはポスト・ヴェイパーウェイブの楽しさです。部屋の中で一人で聴いていると人が悪くなる気がします。飲み会の席でBGMとして流したらどうなるのでしょうか。やってみたい気がします。

 本作品はCVLTVRΣによる2020年代初めての作品ということで、2020年代のプロローグであると同時に2010年代のエピローグでもあり、ポスト・ヴェイパーウェイブの世界を見せる重要作品だということです。気持ちの悪さが快感の作品です。

NEW / CVLVRΣ (2020 DreamCatalogue)