フレディ・マーキュリーが原色にこだわったというジャケットで登場したクイーンの「ホット・スペース」です。私はこのジャケットを見て、てっきり「フラッシュ・ゴードン」の続編かなんかかと思ってしまいました。クイーンのディスコグラフィー外という認識でした。

 私の認識はどうでもよいにしても、この作品はクイーンにとって失敗作だといわれています。メンバーもそのように発言していますから、半ば公式の失敗作です。ヒット・チャートでも英国では4位、米国では22位ですから、クイーン水準では売れない部類に入ります。

 しかし、こうしたスーパースターの失敗作というものは、長い輝かしいキャリアの中に置かれると妙な輝きを放っているものです。もちろん簡単に評価が逆転するわけではありませんけれども、良いアクセントになっていることは間違いありません。

 このアルバムが物議をかもしたのはそのディスコよりのサウンドでした。すでに「地獄へ道づれ」の全米1位ヒットがありましたから、まったく想像できないわけではありませんでしたが、ここではやり過ぎだと受け止められました。

 冒頭から、R&B、ファンク界の大物アリフ・マーディンのホーン・アレンジメントが光る「ステイング・パワー」で一気にブラック・ミュージックのノリが炸裂します。続いて、ブライアン・メイらしいハード・ロックを強引にディスコにしたような「ダンサー」。

 そして、R&Bテイストの真犯人とされるジョン・ディーコンによるこてこての「バック・チャット」へと続きます。そしてシンセ・ベースを中心としたフレディの「ボディ・ランゲージ」。よくできた曲ばかりですし、ファンキーなノリは素晴らしいものがあります。

 しかし、何もクイーンがやらなくてもいいじゃないかと思った人が多かった。そんな声を力でねじ伏せれば良かったと思いますが、どうやらバンド内でも意見が分かれていた様子です。それはB面を聴けばわかります。そちらは以前のクイーンっぽい曲が中心です。

 凶弾に倒れたジョン・レノンにささげた「ライフ・イズ・リアル」を中心に、ブライアンのスペイン語を用いた「愛の言葉」など落ち着いた楽曲が並び、昔からのクイーン・ファンにはすんなりと耳に入る曲ばかりです。さすがに各楽曲の質は高い。

 ここでは「クール・キャット」が驚きです。ブラック・ミュージック志向の二人、フレディとジョンによる曲で、何が驚きかというとフレディのファルセット・ボーカルです。スモーキー・ロビンソンを彷彿させる素晴らしいファルセットです。これでアルバム一枚録ってほしかった。

 最後には、もう一人のスーパースター、デヴィッド・ボウイとの「アンダー・プレッシャー」が収録されています。全英1位となった名曲ですが、日本ではすでにメガ・ヒットとなった「グレイテスト・ヒッツ」に収録されていましたので、このアルバムにあると違和感を感じます。

 映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見ると、バンド内の雰囲気がまるでよろしくなかった時期にあたる作品なわけで、とっちらかったアルバムになる運命だったのでしょう。しかし、それぞれの楽曲の質は高く、失敗作でも凄いというクイーンの貫禄を示してもいます。

Hot Space / Queen (1982 EMI)