いよいよ恐れていたことが現実になってきました。この作品は「日本のみでCD化」されました。海外では配信とLPです。やがてこの二つのメディアに二極化してくるだろうと言われていましたが、いよいよ本格的にその時代に突入してきたのでしょうか。

 ただし、この作品はスクラッチ以来もともとレコード盤との相性が良いDJによるクラブ・ミュージックです。CDをスキップする動きがいち早く始まったとしてもおかしくありません。こうなったら、日本だけでCDを作り続け、海外のマニア向けにも輸出してはどうでしょうか。

 さて、本作品はニューヨークを拠点に活躍するDJプロデューサー、ガルチャー・ラストワークの「インフォメーション」です。ガルチャーは2013年に最初のミックステープ「100%ガルチャー」で「2013年のベスト・サプライズ」としていきなり注目を集めました。

 それ以来、ガルチャーは彼独特の「ロウキーなヒップ・ハウス」を追及し続けています。ヒップ・ハウスはヒップ・ホップに影響を受けたハウス・ミュージックのことで、簡単に言えば、ハウス・ビートにラップを乗せた音楽です。1980年代終わりにシカゴで始まったといわれます。

 基本はハウス・ビートなので、攻撃的にシャウトするラップはあまり似合わず、モノローグ的になってくるのは理解できます。ヒップ・ホップなのかハウスなのかと言われると、ムードは断然ハウスが勝ってきます。ギャングスタ・ヒップ・ハウスはなさそうですね。

 ガルチャーのバンドキャンプ・ページによれば、彼の音楽は「ディープでスムーズでサイケデリックで、クラブにもアフターにも夜のドライブにもヘッドホンにも同じように向いて」いるとされています。これだけ並べるとガルチャーの夜のハウスの雰囲気が伝わってきます。

 「インフォメーション」はガルチャーが自身のレーベルではなく、インディペンデントの老舗ゴーストリー・インターナショナルから発表した初めてのアルバムです。ガルチャーはオハイオ州出身ですから、ゴーストリーのミシガン州とはお隣同士の縁です。

 この作品は、「半分夢の中にいるようなナイトライフとゲットーなクラブの秘密のランデブーがまるで色褪せた記憶のように編集されている」と紹介されています。派手な撃ち合いのないモノクロのギャング映画を観ているようなそんな風情です。

 サウンドは、定義通りのヒップ・ハウスです。ハウス・ビートがどっかと座っていますが、けしてでしゃばり過ぎているわけではありません。生ドラムを大きくフィーチャーしたリズムは、何ともセクシーです。単純なビートのはずなのに次元の数がすごく多そうです。

 「ライヴ感のあるビートの上でヒップホップ~モダン・ファンク~リズム&ブルースからディープ・ハウスなどを通過したサウンドと、気だるくも中毒性にみちたラップ・ヴォーカルが融合し、独特のディープなヒップハウスを構築している」。帯の紹介に任せましょう。その通りです。

 夜のお供には最適な音楽です。今日は何回も何回も繰り返しこの作品を聴いているのですが、夜が更けるに従って、サウンドが頭の中に溢れてきます。「ディープでスムーズでサイケデリック」なガルチャーのサウンドはめちゃめちゃかっこいいです。

Information / Galcher Lustwerk (2019 Ghostly International)