こんなに泣かせるアルバムはありません。収録された音楽に泣かせる要素は何一つありませんけれども、CD再発に至る経緯に涙してしまいます。ほぼ同世代の人間として、終活の一部とも言える40年ぶりの再発プロジェクトは輝いています。

 本作品はもともとは1980年に発売された「東京パンクシーン気骨の4バンド」による「オムニバスLP」です。参加している4バンドはシンクロナイズ、美れい、ノン・バンド、螺旋です。いずれも東京ロッカーズに端を発する東京のパンクスたちです。

 今回の再発に至る経緯は、発売元だった海賊艇Kの野本耕作氏がウェブにアップした「謝罪文」に詳しいです。最初にこの謝罪文を読んだ時にはすでに胸に迫るものがあったので、再発と同時に購入しました。当時の自主制作盤マニアの一人として。

 経緯を簡単に言ってしまうと、野本氏の家業が不渡りを出してしまい、その資金繰りにあてるために、少数ながら流通したアルバムの収益や通信販売分として届いた代金を着服してしまい、注文した人々の多くに作品が届かなかったという事件です。

 それから40年、野本氏は還暦を迎え、そうした人々に作品を無償で届けるとともに、売り上げを参加バンドにすべて返すためにこのプロジェクトを実現しました。人にはやり直したいことがあるものですが、それを実際にやり直してしまう。見事に正しい還暦です。泣けます。

 アルバムには当時付属していた歌詞/アートブックが復刻されている他、4人ものライターによるライナーノーツが付けられるという豪華な仕様になっています。実に丁寧な復刻で、野本氏の気合の入り方が分かるというものです。

 サウンドはとても懐かしいです。ポスト東京ロッカーズ世代ではありますが、あの頃の東京のパンク・シーンのサウンドが詰まっています。この録音、音質から何から、あの当時の東京でしか作れない音です。とにかく懐かしい。

 4バンドのうち、シンクロナイズはトレーランスの丹下順子が在籍していたこともある4人組です。ペインやミラーズあたりの東京ロッカーズを引き継いだサウンドで、シンセを入れているものの、ストレートな青春パンク・サウンドです。

 美れいは岩本きよあきと高校生だった定方ひとみにリズムボックスというスーサイド的なデュオです。「めちゃくちゃに大きなリズムボックスに絶対笑わないベース、ボソボソと聞きとりにくいボーカル」。定方は元ノイズだそうで定方在籍時のノイズにも興味が湧きます。

 ノン・バンドは4バンドの中では最も有名でしょう。すでにノンの個性的なボーカルは確立しています。最後の螺旋は後にギターの北川がリザードに入ることが定められていたかのようなリザードンなパンク・サウンドです。なかなかに生々しいです。

 ディスク・ユニオンでは彼らのライブ音源がボーナスで付いてきました。当時のシーンを思い出して感慨深いです。しかし、これではまるで「懐かしの歌謡曲」に涙する母親世代のようではないですか。これまた正しい還暦の姿かもしれません。

参照:「謝罪文」海賊艇Kブログ

Toshi Tsushin / Syncronize, Birei, Non Band, Rasen (1980 カムイ)