ジョン・ライドンがセックス・ピストルズを解散して始めたバンドはパブリック・イメージ・リミティッド、PiLでした。そのPiLの傑作アルバム「メタル・ボックス」で印象に残るベースを披露していたのがジャー・ウォブル。デビュー作にも参加しましたが、断然こちらの印象が強い。

 もともとウォブルはライドンとは学生時代からの知り合いで、ライドンがPiLを始めるにあたりまず声をかけたのはウォブルでした。このベースが凄かった。ピストルズのベースはシド・ヴィシャスでしたから、余計にウォブルのベースに驚かない人はいなかったでしょう。

 しかし、ウォブルは怠け者集団だったPiLを嫌気し、ソロ・アルバム「裏切り」を制作します。勝手にPiLのサウンドを使ったと糾弾されると、PiLを脱退して、自分のバンドを立ち上げます。この頃のごたごたはライドンらしいなあと遠い日本からわくわくしながら眺めていました。

 さて、次いでウォブルの名前を見かけたのは、クラウト・ロックの雄、カンのホルガー・シューカイのソロ・アルバムでした。ホルガーは当時の英国ニュー・ウェイブ勢の憧れの的でしたし、ウォブルと同じベーシストということで意気投合もしたのでしょう。

 その後、アイランド・レコードから発表されたのが本作品でした。何の前触れもなく発表されたこの作品はウォブルとシューカイ、そしてU2のジ・エッジの連名でのアルバムでした。シューカイは分かりますが、ジ・エッジとは驚きました。U2は当時売り出し中でしたからね。

 図らずも3人連名となっていますが、明らかにジャー・ウォブルの作品です。本作品はウォブルと当時の彼のバンド、インヴェイダーズ・オブ・ハートによる演奏の上に多彩なゲストが入り乱れる作品です。題して「スネークチャーマー」、蛇使いです。

 インヴェイダーズ・オブ・ハートは後にティナ・ターナーの音楽監督となるオリー・マーランドと共にウォブルが作ったバンドで、メンバーの出入りは激しかった模様です。ここではオリーに加え、ギターでアニマル、パーカッションでネヴィル・マレーなるメンバーが参加しています。

 最初と最後が同じタイトル曲のバリエーションで、ジ・エッジがスライド・ギターのソロを聴かせます。さらに珍しいことにホルガーがフレンチ・ホルンやピアノに加え、リード・ギターを弾いています。ホルガーもらしさを全面的に発揮することでウォブルの期待に応えます。

 2曲目の「ホールド・オン・トゥ・ユア・ドリーム」はアーサー・ラッセルの詞にウォブル他が曲をつけたもので、ジ・エッジが実に彼らしいギターを聴かせます。このギターとウォブルの重いベースの合うこと合うこと。ボーカルにはマルセラ・アレンという女性が起用されています。

 この他には同じくカンのヤキ・リーベツァイト、PiL仲間のジム・ウォーカーという二人のドラマーが参加しています。また、マンチェスターのニュー・ウェイブ・バンド、マガジンにいたベン・マンデルソンも1曲でギターを弾いています。

 プロデューサーはハウス・ミュージックの先駆者とされるフランソワ・ケヴォーキアンです。ウォブルのベースを中心とするサウンドの処理の仕方は確かにハウスにつながるサウンドです。ポスト・パンクからハウスへのミッシング・リンクはここにありました。かっこいいです。

Snake Charmer / Jah Wobble, The Edge, Holger Czukay (1983 Island)