アナーキーなパンク、アナルコ・パンク・バンドのクラスのデビュー作です。1977年にスティーヴ・イグノラントとペニー・ランボーが出会うことで生まれたパンク・バンド、クラスは翌1978年にイギリス中を震撼させたこのデビュー作を投下します。

 スモール・ワンダーというレーベルから発表されたのですが、ここでひと悶着起こります。冒頭の「アサイラム」があまりに不敬だということで、レコードをプレスする会社が取り扱うことを拒否したんだそうです。スモール・ワンダーはこの曲をカットして発売にこぎつけます。

 この曲の代わりに入れたのが2分間にわたる無音で、タイトルは「サウンド・オブ・フリー・スピーチ」とつけられました。これに反発したクラスは自身でクラス・レコードを設立し、「アサイラム」のエクステンディッド・バージョンを「リアリティー・アサイラム」としてシングル発売します。

 これはついに警察沙汰にもなりますが、何とかこれをクリアし、1年後にオリジナルの形で本作がクラス・レコードから発売されることになりました。レーベル側から訴えられてもおかしくありませんが、レーベルも面倒は避けたかったんでしょうね。

 正確に歌詞のどこが問題になったのかは分かりませんが、♪キリストは自身の罪で死んだんだ。私の罪じゃない♪なんてキリスト教全否定に近いフレーズがてんこ盛りです。訳出することすら恐ろしいフレーズがばんばん出てきます。挑発的です。

 もう一つ、彼らの名前を一躍轟かせたのは「パンク・イズ・デッド」です。♪革命なんかじゃない。金のためだ♪、♪ヒッピーがそうだったようにファッションに成り下がった♪。ピストルズのスティーヴ・ジョーンズやクラッシュなども実名でやり玉にあがります。

 彼らが一貫して対峙しているのは♪システム♪です。随所に出てくるシステムは現実世界のごみためそのもので、そこに向かうなしくずしの死からの脱却を指向するアナーキー、と間章氏風に表現してみたくなる誠実な言葉が連打されます。

 「アサイラム」のボーカルは女性ボーカリスト、イヴ・リバーティンですが、「パンク・イズ・デッド」を含む大半の曲は超正統派パンク・シンガーのスティーヴ・イグノラントが担当しています。彼のイギリス英語による饒舌な言葉の洪水はまるでラップです。

 「パンク・イズ・デッド」でもう一つ面白いのはパティ・スミスへの言葉です。♪自分の手で書いているが、腕はランボーだ♪、さすがは元ヒッピーのペニー・ランボーです。こういうパンク世代らしくないところがほの見えるところがクラスの妙な懐の深さにつながっています。

 本作品は1978年10月29日にロンドンのスタジオでライヴ録音されています。ということは即興も混ざっているのでしょうか。サウンドはもろパンク、後のハードコア・パンクの原初の形であるとも言えます。圧倒的に純粋なパンクであろうと思います。

 という重要なアルバムなのですが、この当時、リアルタイムで彼らのことを知っていたわけではありません。私は次のアルバムからで、このデビュー作がそんなにイギリスで問題になっていたことなどまるで知りませんでした。ある意味牧歌的な時代ですね。 

The Feeding Of The Five Thousand / Crass (1979 Small Wonder)