リーガルリリー待望のファースト・フル・アルバムの登場です。インディーズ時代のミニアルバム三部作があるので、ファーストと言われると変な気もしますが、メジャーからのアルバムとしてはとにかく初めてのアルバムです。期待通り、素晴らしいアルバムです。

 「ベッドタイム・ストーリー」と題されたアルバムは、とても潔いことにゲストは呼ばれず、リーガルリリーの三人、たかはしほのか、ゆきやま、海だけですべての演奏がなされています。それもたかはしはボーカルとギター、ゆきやまはドラム、海はベースのみです。

 今どきはどこにコンピューターが隠されているか分からないのでうかつなことは言えませんが、他の楽器は一切使われていません。しいて言えば口笛とトライアングルくらいでしょう。ロック・バンドとしての最小のユニットですべてが出来上がっています。

 しかし、音色は多彩です。たかはしのギターはウォール・オブ・サウンドになったり、キラキラした音色でのアルペジオとなったり、笑ったり転んだりと忙しい。唯一のリード楽器として、ボーカルとともにさまざまな表情を見せてくれます。

 驚くのはベースとドラムのサウンドです。前に出てきたり、後ろに引いたり、時にはベースはリード楽器のようですし、ドラムの音も曲ごとにかなり違います。たとえば「1997」ではスマッシング・パンプキンズっぽい裸のリズムが出てきたりします。

 このサウンドは「エンジニアと一緒に時間をかけて録る」ことができたからだとたかはしは述懐しています。ここでエンジニアを務めている釆原史明とは相性がとてもよかったそうです。これがメジャーでアルバムを制作するということなんですね。なるほど。

 アルバムには全部で12曲が収録されており、デビュー・シングルとなった「ハナヒカリ」以外はすべて新曲です。メジャー初アルバムですから、インディーズ時代の代表曲を並べる選択もありましたが、「そっちのほうがかっこよくない?」と新曲になりました。

 ほぼ3か月くらいで作ったということですが、勢いがあって大変素晴らしいです。これまでのリーガルリリーに比べると、ずいぶん明るいアルバムになったのはその勢いが影響しているのかもしれません。繊細なサウンドはそのままにロック・バンドらしく盛り上がりました。

 ジャケットには青森出身のアーティスト工藤千紘による絵が使われています。「ハナヒカリ」の初回限定盤も彼女の絵でした。たかはしのボーカルはまるでこの少女が歌っているかのように聴こえます。一見儚げですが、吸い込まれそうな豊かな表情です。

 そこで描かれる世界は奈落と背中合わせの日常風景のようで、「この世界の片隅に」を思い出したりしました。キラー・フレーズは帯に印刷されている♪私は私の世界の実験台♪でしょう。言葉がサウンドで増幅されて腹の底に響いてきます。深い。

 最後はファースト・ミニと同じくニルヴァーナ的に隠しトラックで終わります。これがまた即興のようで、アルバムの余韻をもう一度増幅して離れがたくしていきます。当代のロック・バンドの中では私は彼女たちが一番好きです。期待通りの大傑作だと思います。

参照:「リーガルリリー『bedtime story』インタビュー」森朋之(音楽ナタリー) 

Bedtime Story / Regal Lilly