シェークスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」で有名になった言葉、「ワールド・イズ・マイ・オイスター!」で始まる、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの大問題作です。彼らは、何だこいつらは、と毛嫌いされることも多かった1980年代イギリスの生んだ問題児でした。

 バンドの結成は1980年夏のことです。ビッグ・イン・ジャパンのボーカリストだったホリー・ジョンソンを中心にした5人組フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは、ギター、ベース、ドラムにボーカル2人というとてもオーソドックスな編成のバンドでした。

 そんな彼らはZTTレコードと契約を交わし、トレバー・ホーンのプロデュースを得て大ブレイクします。デビュー・シングルの「リラックス」は意味深な歌詞のダンス・チューンで、いきなり全英5週連続1位の大ヒットを記録しました。1980年代を代表する名曲です。

 この曲、あのバンド編成からは想定できないエレクトロなダンス曲です。演奏はZTTのアート・オブ・ノイズの連中による部分が大きく、ZTTのプロモーション戦略も人騒がせだったこともあり、作られたバンド感が強かった。そこが「何だこいつら」ポイントです。

 続くシングル「ツー・トライブス」も9週間全英1位となりました。この曲は核戦争による人類滅亡をテーマにした曲で、ミュージック・ビデオにはレーガン大統領とチェルネンコ書記長のそっくりさんが登場します。当時は冷戦真っ只中で欧州には暗雲が漂っていたんです。

 「ツー・トライブス」が1位となっていた時に「リラックス」が再度ヒットして2位となっていました。ビートルズと比肩しうるチャート・アクションです。ただ、この2枚のシングルはさまざまなミックスが発表されたことでも物議を醸しました。「何だこいつらは」ポイントその2です。

 ともかく本作品は彼らの待望のデビュー・アルバムです。シングル2曲を含み、当然のごとく英国を始め、ヨーロッパで大ヒットしました。ついでにアルバムからのシングル・カット、「パワー・オブ・ラヴ」も1位となり、デビューから三作続けて1位の快記録を打ち立てました。

 アルバムには意表をついて、ブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」、ディオンヌ・ワーウィックの「(ドゥ・ユー・ノウ・ザ・ウェイ・トゥ・)サン・ホセ」、ジェリー&ペースメーカーズの「フェリー(・クロス・ザ・マージー)」のカバー曲が収められています。

 しかも、「明日なき暴走」など、そのまんまのロック・カバーです。彼らの本質は実はそこにあって、エレクトロニクス仕様はトレバーの戦略なのでしょう。曲はすべてメンバーが書いていますし、演奏力も確かなものがあるので、けして操り人形ではないのですが。

 フランキーのメンバーはゲイを公言してもいましたし、反戦運動にもコミットしていました。こうした点もプロモーションの一環と見られてしまったのは残念なことです。そうした喧騒がもはや遠い昔となった今、「何だこいつら」と言わずに彼らに向きあう好機です。

 やはりシングル曲は名曲ですし、ホリーのボーカルを始め、バンドの力量の高さが垣間見られます。そして、トレバーがつけた意匠は芸術趣味を含めて実に1980年代を象徴しています。やはり勢いがあったバンドは違います。時代密着型の名作だと思います。

Welcome To The Pleasuredome / Frankie Goes To Hollywood (1984 ZTT)