昔はよく当代の人気者や実力者を、四天王だとか、御三家だとか、三大なんちゃらとかまとめて表現したものです。最近ではあまりみかけませんが、真の御三家はだれかとかわいわい議論するのは随分楽しかったので、また流行ってほしいもんです。

 更新されないのでいつまでもロック界三大ギタリストに君臨しているのは、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジの三人です。いずれも1960年代の終わりから70年代のブリティシュ・ロックを牽引した文句なしの名ギタリストです。

 ヤードバーズはその「いわゆる『三大ギタリスト』を輩出した伝説のグループとして知られるが、より正確には、そのことでしか知られていないといったほうがいいかもしれない」バンドです。これは中山康樹氏の名言です。いや、本当にこの言葉どおり。膝を打ちます。

 私が洋楽に夢中になった1970年代の半ばには、三大ギタリストはそれこそロック界を席巻していましたが、ヤードバーズは三大ギタリストのバンドとしてロック史の教科書に書かれているのみで、まわりでは彼らの曲を聴いた人は見当たりませんでした。

 伝説ばかりが膨らむ中で、ようやく初めて耳にしたのが「フォー・ユア・ラヴ」でした。誤解を避けるために最初に申し上げておきますが、これは名曲です。後に10ccとなるグレアム・グールドマン作曲の素晴らしくポップな生きのいい曲です。

 ただ、「超大物三大ギタリストの伝説のヤードバーズ」という頭で聴いたものですから、なにこれ、と思ったものでした。ここでギターを弾いているクラプトンもこの曲のポップさに不満で、ヤードバーズを去る原因の一つにもなったそうですから私が思うのも無理もありません。

 それはともかく、このアルバムは「フォー・ユア・ラヴ」が英米でトップ10ヒットとなったことから、アメリカのEPICレコードが独自編集で仕上げたヤードバーズのアメリカでのデビュー・アルバムです。イギリスでのデビュー盤は全く異なるライヴ盤でした。

 アルバムの構成は英米でのB面を含むシングルやEPからの音源でできており、そのうちの3曲はクラプトン脱退後、ジェフ・ベックが加入してからの曲です。三大ギタリストのうちの二人のプレイを聴く事ができるという意味ではお得感があるアルバムになりました。

 オリジナル曲は「フォー・ユア・ラヴ」と、ボーカルのキース・レルフ作曲の「エイント・ダン・ロング」、プロデュースにあたったジョルジョ・ゴメルスキーの「ガット・トゥ・ハリー」の3曲のみで後はR&B曲のカバーです。なお、ボートラはベックとレルフの共作曲ですので念のため。

 「フォー・ユア・ラヴ」は際立ってポップな楽曲ですが、それ以外はブルースなりR&Bなりロックンロールを消化して自分たちの音楽にするのだという意思が明確な曲が並びます。さすがに二人のギターは聴かせます。くわえてキース・レルフのハーモニカがうまい。

 寄せ集めながら、1960年代英国ロック揺籃期の熱気が漂ってくる熱いアルバムです。変にまとまったアルバムでないところがかえっていいです。歴史的な価値ばかりが注目されますが、とにかく若かったヤードバーズの溌剌とした演奏は胸を熱くしてくれます。

参照:「ビートルズから始まるロック名盤」中山康樹(講談社)

For Your Love / The Yardbirds (1965 Epic)