「ロード・テープス」シリーズは、音質は今一つであっても、演奏自体がとても貴重なものを発表してしまおうというコンセプトです。最初にそう断られれば、聴く者としても覚悟ができるというものです。好評だったのでしょう、本作が三作目です。

 2枚組に収められた演奏は1970年7月5日、ミネソタ州ミネアポリスにあるタイロン・ガスリー劇場での2回のショーで繰り広げられたものです。1日2回公演ですが、両者は2曲しか被っていないという、さすがはザッパ先生という構成になっています。

 バンドはタートルズの二人、フロー&エディことハワード・ケイランとマーク・ヴォルマンのコンビが加入した、いわゆるタートル・マザーズです。彼らがマザーズに加入したのは同年6月のことでした。彼らのマザーズとしての初ツアーです。

 そして重要な人物、ジョージ・デュークも同年5月に初めてマザーズに顔をだし、このツアーから本格的に参戦しています。さらにベースのジェフ・シモンズ、ドラムのエインズレー・ダンバーも比較的新顔です。新生マザーズと言ってよい布陣です。

 唯一の古株はザッパ先生の右腕ともいえるイアン・アンダーウッドです。ここに至る「アンクル・ミート」、「ホット・ラッツ」、「バーント・ウィーニー・サンドウィッチ」で大きな役割を果たしたイアンです。ここに概念的にとどまらない連続性を感じます。

 このライヴ録音は1970年マザーズの完全なショーを収めたものとしては数少ないものの一つです。その意味ではとても貴重なものだと言えます。もっともこのマザーズの演奏自体は「200モーテル」や「プレイグラウンド・サイコティックス」を始め、あちこちで聴けます。

 その録音ですけれども、今回はマスターテープが中古だったために、当初35分間ほどは演奏が静かになると、テープに残っていた消したはずの音楽が聴こえてくるという恐ろしいことになっていたそうです。そこでステレオイゼイションと呼ばれる処理が施されました。

 何と当該部分の左チャンネルをほとんど削って右チャンネルから無理矢理ステレオを作り出すという処理で、クレイグ・パーカー・アダムスの見事な手腕です。そのためフラフラした感じがするのですが、幸い、最初の「コール・エニー・ベジタブル」までです。

 その後に始まる20分の「キング・コング/イゴールズ・ブギー」は幸い無傷です。「チャンガの復讐」にも一部使われたこの演奏はとにかく素晴らしい。これがあるから本作をリリースしたのではないかと思えるほどです。「キング・コング」とは一風異なる「キング・コング」です。

 フロー&エディが入っているものの、まだ新参なのでボーカルの比重はそれほど大きくなく、直近3作品の流れを汲むアンサンブル路線で、ストラビンスキー趣味も色濃く出ているところが特徴です。そしてエインズレー・ダンバーのド迫力ドラムが冴えわたっています。

 ギターはザッパ先生一本ですが、ダンバーのドラムが賑やかなので、サウンドが分厚いです。決して音質が良いとは言えない作品ですけれども、このツアーでしか聴けないマザーズのサウンドですから、聴いて損はありません。聴いて本当に良かったと思いましたもん。

Road Tapes, Venue #3 / Frank Zappa (2016 Vaulternative)