2020年グラミー賞の冒頭を飾ったリゾのパフォーマンスは圧巻でした。8部門ノミネートされた中で、最優秀ソロパフォーマンス賞を受賞したのはビリー・アイリッシュも納得でしょう。それだけ圧倒的なパフォーマンスをみせた2019年でした。

 彼女のパフォーマンスを見ていると、自分がいかにミソジニーとルッキズムに毒されていたかを思い知らされます。そして、それを克服した先には、不良だった視界が開け、広々として自由闊達な世界が広がります。そんなことを教えてくれました。

 リゾは「人種、性別、体型に縛られない現代女性の気持ちの代弁者!ラヴ・パワー+ポジティヴ・ヴァイブス!ダイバーシティ時代の超大型ポップ・アイコン」であると公式サイトが紹介しています。これも旧世代からの言葉ですね。彼女はそれを軽く超えています。

 本作品はリゾの3枚目のアルバムです。リード・シングルは「ジュース」、ジュースは魅力を表しており、♪きっと私のジュースのせい♪というフレーズがやたらとかっこいいポップな楽曲で、彼女にとっては初のヒットとなりました。

 この曲が導火線となり、リゾの2017年のシングル「トゥルース・ハーツ」がネットフリックスのドラマに使用されたりして再ヒットし、結果的に7週連続全米1位を記録します。リゾはこの曲でグラミー賞にノミネートされています。飄々とした面白い曲です。

 このブレイクがあったため、このアルバムは急きょデラックス盤として、同曲を含む3曲の既発シングルを加えて再度リリースされました。手元にあるのはそちらのバージョンで、グラミー賞へのノミネートもこちら「コズ・アイ・ラヴ・ユー(デラックス)」です。

 このアルバムは素晴らしく元気が良くて、とにかく楽しいです。いきなりのシャウトで始まり、3分前後の曲ばかり14曲が連打されていきます。プロデューサー陣はロック・バンドのXアンバサダーズや、レーベル創設者のリッキー・リード、トルコ系のオークなどこれまた多彩。

 Xアンバサダーズが手掛けた曲は、グラミーの最優秀トラディショナルR&Bヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した「ジェローム」を始め、R&Bシンガーとしてのリゾの魅力を引き出す伝統的なR&Bの味わいが強いです。

 一方、リードが係わった曲、「ジュース」や「トゥルース・ハーツ」はラッパーとしてのリゾの魅力も堪能できる仕様になっています。むやみに実験的になることなく、アメリカの大衆音楽の現在進行形をしっかりと踏まえた極めて上質なコンテンポラリー・ポップが展開します。

 リゾは本作において、尊敬する歌手ミッシー・エリオットをフィーチャーしたり、プリンスにオマージュを捧げたりと、とても素直な姿勢を貫いています。デビューから10年、数々の客演をこなした苦労人だけに、底抜けの明るさがいっそう光ります。

 聞けばセーラームーンのコスプレでフルートを吹いていたとか。セーラームーンのエンパワー効果は絶大です。リゾの大活躍にはうさぎちゃんも喜んでいることでしょう。そして、リゾこそが次の世代にとってのセーラームーンになっていくことでしょう。

Cuz I Love You / Lizzo (2019 Nice Life)