クラウト・ロックを代表するバンド、カンの貴重なライヴ・アルバムです。1970年11月にドイツのテレビ局WDRにて放映するために録音されました。「ライヴ・ロックパラスト1970」と題されており、テレビ番組ロックパラスト、すなわち「ロック宮殿」にて放映されたと思われます。

 しかし、アルバム裏には、同じWDRでも「若者の回転木馬」ショーでの放映だと書かれています。場所はケルンから80マイル離れた町ソエスト。いずれにせよ、テレビ番組のためのライヴであることは間違いありません。拍手の数もテレビ・スタジオっぽいです。

 ライヴが行われた時期は、マルコム・ムーニーに代わってダモ鈴木がボーカリストとして加わったわずか半年後のことでした。アルバムとしては「モンスター・ムービー」と「サウンドトラック」が発表されていた頃です。かなり早い時期のライヴであることが分かります。

 アルバムのブックレットにイルミン・シュミットの言葉が引用されています。それによれば、カンのレコード制作では、同じリズムで延々と曲を演奏し続け、その演奏からベストと思われる部分を取り出して切り貼りしていく手法がとられています。

 これは有名な話でしたから、私も当然知っていました。それだけに初期のカンのライヴはどんなことになるのか楽しみにしていました。果たして、お馴染みの曲をスタジオ盤通りに演奏したりするのかどうなのか。結果はそうでもあり、そうではなくもあり、といったところでした。

 本作品には全8曲が収録されています。デビュー作からの曲は演奏されておらず、二枚目の「サウンドトラック」から「デッドロック」、「ドント・ターン・ザ・ライト・オン・リーヴ・ミー・アローン」、「マザー・スカイ」の3曲が盤上に位置を占めています。

 さらに本ライヴの3ヶ月後に発表される3枚目のアルバム「タゴ・マゴ」から、「ペーパームーン」、「ブリング・ミー・コフィー・オア・ティー」、「オー・イエ」の3曲が先行して演奏されています。そして後の2曲は未発表曲です。バランスよく選ばれています。

 未発表曲はともかく、既発曲がどのように演奏されているかというと、意外にスタジオ盤に忠実な部分もありながら、「ブリング・ミー・コフィー・オア・ティー」などは既発表曲を念頭に置いていますくらいの再現ぶりで、まるで別の曲のようなことになっています。

 いずれにせよ、ボーカルも含めて即興の部分が大きいことは十分に分かります。オリジナルに忠実であっても、なぞろうとしているわけではないように思われます。主眼はあくまで自由な演奏にあるのでしょう。わくわくする演奏が繰り広げられています。

 カンのサウンドの大きな特徴であるヤキ・リーベツァイトのメトロノームのようなドラムに支えられた演奏は超然としているのか熱いのか何とも言えない味わいに満ちています。ただし、残念ながら録音は最高とはいえません。しょせんは当時のテレビ音質です。

 未発表曲では、長い方「アイ・フィール・オールライト」が面白いです。途中から「マザー・スカイ」が出てきそうになる。即興ならではのメンバーのコミュニケーションの取り方が目に見えるようです。とにもかくにも貴重なライヴ。聴けるだけでも幸せです。

Live Rockpalast 1970 / Can (2020 Roxvox)