私にとってはクラスこそがパンクでした。もちろん彼らは「パンク・イズ・デッド」と歌っていますし、英国で吹き荒れたパンク・ムーヴメントに批判的だったのですけれども、その姿勢そのものがとてもパンクです。みんな一緒にパンクやろうぜって言われても鼻白むばかり。

 本作品はクラスが自身のレーベル、クラス・レコードから発表したセカンド・アルバムです。2枚組の大作ですが、最初の3面はスタジオ録音で45回転、最後の面は彼らのライヴを収録したもので、ここだけ33回転という変則的な形でリリースされました。

 クラスは唯一無比のバンドでしたから、後にドキュメンタリー映画も制作されましたし、今やクラスに関する情報はそれこそウェブ上でも大量に見つけることができます。しかし、発表当時の日本にはごく断片的な情報しかありませんでした。

 それでも次作は国内発売もされましたから知名度は上がりましたけれども、本作品発表時には、どうやら自給自足のコミューンのような生活をしながら活動している究極のアナーキー・バンドらしいという情報が聞こえてくるのみでした。

 その性格を一番表しているのは本作品の値段です。買ってから2枚組になっていることに驚いたほど安かった。さすがは自給自足、資本に背を向けた姿勢はとてもパンクだと思いました。お騒がせ事件のせいでやむなく自主レーベルを設立したという事情なんだそうですが。

 コミューンと言えば1960年代のヒッピーの匂いがします。そうなんです。彼らのコミューン、ダイヤルハウスの主ペニー・ランボーは30代のヒッピー崩れです。彼が15歳も年下だったスティーヴ・イグノラントに出会い、クラスが誕生したんです。

 スティーヴはクラッシュを見てパンク・バンドを志した正統派パンク少年でしたが、そこにペニーの「アナーキー&ピース」のヒッピー哲学が合体することで、徹底したDIYバンドが誕生しました。メンバーは男5人、女3人の8人で、自由なバンド形態でした。

 そんな彼らの叩きだすサウンドはパンクそのものでした。クラスのサウンドはそれまでのパンク・サウンドを純化したような潔いものでした。時は1979年、いわゆるパンクからニュー・ウェイヴないしはポスト・パンクへと移行していく時期だっただけに潔さが際立ちます。

 ドラム、ベース、ギターによるロック編成で、時に政治的な激しいメッセージをシャウトする。極めてシンプルなサウンドに、大量の言葉が叩きつけられます。アルバム・スリーヴは特大ポスターを折り込んだもので、LP2枚分の大きさに歌詞がびっしりと書き込まれています。

 女性2人を含む4人のボーカリストがいる中で、スティーヴの正統派パンクっぷりが群をぬいています。ペニーは妙なドラムを叩いていますが、彼を含めて全員が上手なわけでもなく、とにかく高速にきめようというパンク精神が横溢しています。

 一切の妥協をせずにアナーキー&ピースを訴えかけるクラスはその純粋さにおいて最もパンクだったと思います。2枚組を聴き通すのはややしんどいですけれども、彼らの超正統派パンク・サウンドに身体をさらしていると、精神が浄化されていくようです。

Stations Of The Crass / Crass (1979 Crass)