ハイパー箏奏者八木美知依と日本を代表するドラマーの本田珠也による道場の第二弾です。今回の道場破りはサックスの坂田明とバイオリンの太田惠資の二人です。この二人は何回か道場破りをしてきた道場破りの常連のようですね。

 本田珠也はジャズ界のサラブレッドではありますが、もっとも影響を受けたドラマーとして、剛腕ジャズ・ドラマーのエルヴィン・ジョーンズとならんで、ロック界最強のどんどこドラマー、ジョン・ボーナムの名前を挙げています。ド迫力のドラムが期待されます。

 その期待を裏切らず、本作品でも恐ろしいドラムが披露されています。冒頭の八木と本田による「狂い咲き」は、八木によるとても重いベースラインにのせて本田のドラムが炸裂するのですが、これがとても悪魔的なプログレッシブ・ロックのようです。

 ところがこれで驚いてはいけませんでした。最後の曲「テキサス・スシ」は、「ロックっぽい曲もやろうよという、珠也さんのアイデアから生まれた曲です」という通り、本田のドラムはボンゾが乗り移ったかのようなモードに入っています。

 ここに道場破り太田が意外なことに「戸惑いもなくテキサス風エレクトリック・ブルーズをかまして」います。そして、ここに八木がエレクトリック箏で参戦するのですが、バイオリンも箏もまるでギターのような音になっています。ワーキング・タイトルは「ノー・ギター」。

 一方、「宇宙航路」は太田のコズミックなバイオリンで、サン・ラーのようなコズミックなスペース・ロックですし、「旅人」は同じく太田が中心となった中近東ないしは中央アジアっぽいエスニックな曲です。とてもそちらっぽい歌はすべて即興言語です。太田ならでは。

 これに対して坂田明は御大らしく、定番の民謡「音戸の舟歌」を持ち込んでいます。坂田の考える日本は、昭和をはるかに越えた射程を捉えています。彼のライフワークたる平家物語とも一脈通じる日本の深いところに触れる演奏です。

 掛け声は八木が担当しており、「坂田さんから、『民謡の先生みたいじゃいけん!自分のことばでかけんさい』と指摘を受け、私も八分。『お父ちゃん!』『ぎゃー』などと叫んでいます」。型にはまった民謡とはほど遠い、心の奥底にあるリアル民謡です。

 「大渦巻」は「坂田さんを呼んでいとも簡単に生み出された即興」ですし、「夢の跡」は二人だけの静謐な演奏。要するに一曲一曲、とても振れ幅が大きいです。実験精神は「壱ノ巻」から続く道場の大きな特徴だと思います。聴いてて素直に楽しいです。

 最初の頃は本田が八木に「合わせ過ぎる」という印象を持っていたそうです。それが今では「珠也さんのドラミングは、常に彼の方から積極的に一体感を作ってくれる」という感想に変化しています。よほど息が合ってきたということなんでしょうね。

 今回の道場破りは、70歳を超えてなお謙虚で向上心あふれる坂田明と我が道を行くバイオリンの太田惠資という、道場破りの中でも特異な二人です。こうした試みはますます八木と本田のデュオを磨いていくことでしょう。音楽の道は果てしなく続いていきます。

Dōjō Vol. 2 / Michiyo Yagi, Tamaya Honda (2017 Idiolect)

直接は関係ありませんが。