原田珠々華は「初めて出会い、音楽の海へと連れて行ってくれたのが、<初音ミク>という存在だ」そうです。孫と言ってもおかしくない年齢差ゆえに覚悟はしていましたけれども、さすがにこのお話には顎が外れそうになりました。

 「小学生の頃にボーカロイドを知り、YouTubeで繰り返し繰り返し聴いて」って2002年生まれの彼女ですから、何にもおかしくはありません。ありませんけれども、驚きました。確かに彼女にとっての私は、私にとっての大正デモクラシーですから無理はありませんが。

 それだけ隔絶しているにもかかわらず、原田珠々華のデビュー・ミニ・アルバムである本作品は、とても耳によく馴染むポップスで満たされています。この分かりやすさを誤解してはいかんのでしょうね。聴こえているものがまるで違うのかもしれません。

 原田は公式サイトによれば、「幼少期よりモデル・タレントとしての活動をスタートし」ています。その後、「中学2年生の時にアイドルグループ、アイドルネッサンスに加入」、同グループが解散してからは「アイドルもシンガーソングライターも網羅する」活動をしています。

 本作品は3曲のデジタル・リリースを経て、初めて発表されたアルバムです。しっかり収録されたその3曲を含め、全7曲はすべて原田の作詞・作曲です。ただし、「ハジマリのオト」1曲のみはプロデューサーの山本幹宗との共作となっています。

 山本はくるりや銀杏BOYZのサポートギタリストとして活躍している人で、本作では編曲とギター、プログラミングを担当しています。ここでは山本は自身のギターに加えて、ベース、ドラムス、パーカッション、ときどきバイオリンというシンプルな編成での音作りをしています。

 原田は弾き語りアーティストとしても活動していますけれども、ここではボーカルに専念している様子です。しかし、演奏はシンプルでオーガニックなバンドによるものですから、アコギの弾き語りから遠く隔たっているわけではありません。

 もともとアイドルネッサンスは埋もれたJポップを発掘して歌うアイドルでした。そことの地続きで原田の活動があると考えられます。本作品でもちょっと懐かしいJポップの雰囲気が濃厚なんです。そこが耳に優しい大きな理由です。

 本作の制作時にはまだ16歳ですから、いろいろと悩みもあることでしょう。しかし、それでも出てくる言葉はまっすぐで清々しいです。「fifteen」では過ぎゆく15歳をどう受け止めるか悩んでみたり、そのものずばり「今年の夏休みは君とデートに行きたい」なんて言ってみたり。

 ♪128√e980方程式♪はさすがに分かりませんでした。上半分を隠すとアイ・ラブ・ユーなんだそうです。何と可愛らしい。そういうフレーズもありますけれども、彼女の心の移り変わりを素直に写し取った曲を堂々と歌い上げています。自分に自信がないと言っていたのに。

 ここまで素直に真っ直ぐに歌われると何だか空恐ろしくもなります。むしろビリー・アイリッシュの方が安心できる。どのように接すればよいのか、普通に聴いていればよいのでしょうが、あまりの歳の差に不安を覚える眩しさです。

参照:「原田珠々華の歌いながら行こうよ」第14回(BOUNCE430 タワーレコード)

Hajimeteno Ao / Harada Suzuka (2019 Tower Records)