キング・クリムゾンが解散から7年を経て復活しました。当初はバンド名がディシプリンとされていたのが、いつの間にかキング・クリムゾンになってしまっていたので、鳴り物入りの復活というインパクトはやや薄く、なし崩しの復活になってしまったというイメージでした。

 キング・クリムゾンそのものであるロバート・フリップ御大には、この前にクリムゾン事実上の復活と言われたリーグ・オブ・ジェントルメンの試みがあり、そちらは早々に終わってしまっていましたから、このディシプリンも同じようなものだろうと私などは思っていました。

 しかし、バンドでのリハーサル中にメンバーやレーベル・メイトのブライアン・フェリーから、このバンドは「キング・クリムゾン」であることが相応しいと言われたとか、お試しツアーの手ごたえを得たとか、命名の事情を知ると、これは本格的な復活劇だったことが分かります。

 フリップ以外のメンバーはオリジナル・クリムゾンからドラムのビル・ブラッフォード、トーキング・ヘッズのアルバムにゲスト参加していたエイドリアン・ブリュー、そしてピーター・ガブリエルのアルバムで知り合ったトニー・レヴィンの3人です。

 すでに名声を確立していたビルはともかく、エイドリアンとトニーはこのキング・クリムゾンで箔がついてどんどん活躍の場を広げていきました。二人の活躍ぶりをみるにつけ、さすがはフリップ御大、ミュージシャンを見る目は確かだと感じ入ります。

 結局、バンド名はキング・クリムゾンとなり、ディシプリンはアルバム・タイトルとされました。ディシプリン、すなわち規律です。この言葉はキング・クリムゾンにこそ相応しい。英国五大プログレ・バンドの中にあって、最も厳格な規律があったようにみえるのはクリムゾンです。

 本作では、象の鳴き声ギターを弾くエイドリアンがファンキー要素を持ち込んだり、フリップがソロ活動で本格化させたフリッパートロニクスを使用したり、ミニマル・ミュージックの影響をふんだんに取り入れたり、とかつてのクリムゾンにはない要素が満載です。

 そこを評価しない人はしない。解散前のキング・クリムゾンを圧倒的に支持していた日本ではとりわけその傾向が強く、発表当時、このアルバムを好意的に評価している意見を聞いたことはほとんどありませんでした。プログレらしいプログレでないとの評価です。

 しかし、いくらエイドリアンが変な声で歌おうとも冷静沈着なフリップ御大が呑み込まれるわけもなく、時が経つにつれてアルバムの評価は高まっていきました。相変わらずフリップの言葉は意味が分かりませんでしたが、音楽を創る腕は確かでした。

 本作はエイドリアンの紹介の意味を込めた「エレファント・トーク」に始まり、なぜか日本語で♪待ってください♪と歌う「待ってください」や、もろにトーキング・ヘッズ風の「セラ・ハン・ジンジート」を経て、後半のミニマル・ビートが続くインストゥルメンタル2曲に至ります。

 この2曲「シェルタリング・スカイ」と「ディシプリン」はアルバムを決定づけています。規律が強いおかげで、ファンキーになり切らない、ミニマルで端正なファンキー・リズムが素晴らしいです。泣きの曲こそありませんが、これもまたクリムゾン・サウンドの完成形です。

Discipline / King Crimson (1981 EG)