山本彩はNMB48を2018年に卒業しました。NMBのみならずAKBグループの顔として高い人気を誇っていましたが、AKBグループを卒業する人も多いですから、世間ではそれほど大きく騒がれませんでした。とはいえ本人や残されたグループには大変なことだったでしょう。

 山本は2018年11月の卒業公演を終えると、2019年に入ってレコード会社をユニバーサルシグマに移籍します。まずはソロライブツアーを実施して、それからシングル「イチリンソウ」を発表するという、大物ならではの順番で活動を開始します。

 その後、「棘」、「追憶の光」と順調にシングルを発表します。3曲ともメディアとタイアップしており、耳に馴染みがあります。さすが大物と言いたいところですが、「プレバト」のエンディングとか売り出し中の新人枠なので、役不足ではないかと感じたものです。

 本作は、卒業後1年を経てようやく発表されたフル・アルバムです。その名も「α」、新たな出発に相応しいタイトルが選ばれました。このままシグマまで突っ走っていってほしいものです。通算すると3枚目となり、ついに全曲を山本が作詞作曲しています。アーティストです。

 そして、ついにアコギがメインですけれども、山本のギターが全面的に解禁されています。まだ独り立ちしていないのが残念ですが、何はともあれおめでたいことです。ギタリストとしてのエゴもどんどん出していってほしいものです。期待しています。

 サウンド面では、全11曲を9人のプロデューサーが担当しています。昨今のアイドルの流行りなんでしょうか、一曲一曲違う人が手掛けるというのは。それとも配信時代にふさわしい手法なんでしょうか。昔ながらのアルバムの考え方とは少し違いますね。

 ここではシングルの順番で言えば、まずは亀田誠治。山本の過去作をプロデュースしていますから、順当です。続いて根岸孝旨、Coccoのプロデュースやサザンのレコーディングへの参加などで有名なプロデューサーです。そしてミスチルで知られる小林武史。

 若手中心のエビ中とは異なるJ-POP界の大物ばかりです。3人に加えて、ジュンスカイウォーカーズの寺岡呼人、アシッドマンの大木伸夫、少し若手のモリ・ゼンタロー、カイ・タカハシ、トオミヨウ、小名川高弘という顔ぶれです。いずれも有名な人のようです。

 こうしたプロデューサーが集まるのは大物アイドルならではです。はロンドンでのマスタリングにはトム・ヨークやコールドプレイなどを手掛けたマット・コルトンが参加しています。うーん、豪華です。これだけのスタッフに支えられてしっかりと自分を表現する山本彩は凄いです。

 基本的には気持ちの良いロックが並びます。「ステイ・フリー」や「ホームワード」などの打ち込みトラックにも、他のバンド・サウンド同様にロックを感じます。バラエティ豊かな曲調で、プロデュースもさまざまですが、アルバムとしての統一感があるのは山本彩の強さでしょう。

 私は「棘」のヴィンテージなハードロック感が好きです。この曲を含め、実験的な音楽ではなく、きちんとプロデュースされたサウンドは各方面に気を遣うアイドルらしい完成度の高い作品を生みました。しかし、だんだんワイルドになってきてはいます。いよいよ大暴れも近いか。

α / Sayaka Yamamoto (2019 ユニバーサルシグマ)